343ページ目…仮説とクズハの異変【1】

 アレから僕は聖王都の事件を思い出していた。

 そう、僕以外…過去に何人もの人が、この世界に迷う込んでいたと言う事を…。


 そして、彼等は『零の使い魔』を名乗る一団と手を組み、この世界に害を為そうとしていた事を…。

 まぁ、その結果は『零の使い魔』を名乗る魔族を倒した事により終止符を打った訳なのだが…。


 そんな彼等の目的と言うのが、単純では有るが実現するのが厳しいであろう、『自分達の世界に戻りたい』と言う物だったのだ。

 結論だけ言えば、魔族に騙されていたとは言え、『魔王』を復活させれば元の世界に戻して貰えると唆されていたのだ。

 それでも、彼等にとっては、藁をも掴む思いだったのだろう。

 それに、彼等はこの世界の住人ではない…その為、彼等は、この世界がどうなっても良いと思ってしまったのかも知れない。


 その結果が、聖王都に蔓延る悪となって魔王を復活させようとしていたのだ。

 とは言え、そんな事とは関係なく魔王は、この地に復活した…。

 だが、復活した魔王は、彼女を捜す事なく世界を滅ぼそうとしている。

 しかも、自分のしもべ達である魔族を使い捨てる形で…だ。


 だが、もし…その復活した魔王が、彼等と同じだったら?

 転移者…もしくは、転生者…だと仮定するなら、話は変わってくるのではないだろうか?

 もし、そうであるならば…僕と同様に、自分の中に魔王・零の魂の一部がある事に気が付いても不思議ではない。

 そして、何かの拍子に、その魂の力を使える事を知ったなら…。


 いや、僕でさえファンタジーでありがちな事を実戦したりして自分の能力を増してきたのだ。

 そして、それに気が付いた時、自分に力があると知ったなら…。

 今回の様な、暴走をしても何ら不思議ではない。


 ついでに言うのであれば…今の魔王が、聖王都の人達と同じ事を思い付いたのなら…。

 この世界が滅ぶ際の力を使い、元の世界に戻ろうと試みる可能性もあるのではないだろうか…。

 コレが、先程考え付いた僕の仮説だ…。


 とは言え、あくまでも仮説である…実際に魔王と対決しない事には分からない。

 もっとも、魔王に聞いたとしても素直に答えるとは思えないが…。

 そんな中、僕はクズハの態度が気になった…。


 と言うのも、クズハが先程からお尻の辺りを気にしているのだ。


「なぁ、プリン…さっきからクズハはお尻の所ばかり気にしてないか?」

「そうなんですか?と言うか、ご主人様あなたはクズハのお尻ばかり見ていたのですか?」


 可笑しい…何やら、人聞きの悪い様な台詞に聞こえるのは何でなんだろう?


「プリンさん…僕が言ってるのはクズハの態度が気になったのであって、クズハのお尻が気になったのではありませんよ?」

「へ~…だったら、クズハのお尻に、まったく興味はないのですね?」


 真正面から、僕の目を見ながらプリンが聞いてくる。

 当然ながら、その答えはノーと言うう。

 クズハには柔らかいお尻と、プリンには無いモフモフの尻尾がある。

 それを興味ないとは流石に言い切れない。

 その為、つい、プリンから視線を外してしまった…その次の瞬間…。


「ギルティ!」


 プリンから放たれるは、強力な触手のソレを…僕はそっと軽く後ろに飛んでダメージを拡散させる。

 下手にこんな物を直撃したら気絶してしまう。

 そうでなくても、予想外の出来事で僕達は無駄に時間を使ってるのだから…。


 そんな訳で、衝撃を逃がした…までは良かったのだが、その跳んだ位置が悪かった。

 何と、そこにはクズハが居たのだ。


「避けろ、クズハ!」

「えッ!?」


『ドシャッ!』


 叫ぶが早いか、ぶつかるが早いか…僕とクズハはぶつかって倒れてしまう。

 僕は慌てて立ち上がろうとして、右手で地面を押して立ち上がろうとする。


『むにゅ♪』


 だが、右手に伝わる感触は硬い地面の感触ではない…何やら柔らかく…それでいて、僕の手に吸い付いてくる様な感触。

 思わず、僕はその感触を確かめる為に、何度も手を動かした。


『むにゅ、むにゅ、むにゅ♪』


「あ、あん…ご主人様あなた♪」


 直ぐ近くから聞こえるクズハの声…しかも、微かに色気を含む上擦った声…。

 ここで、ようやく自分が何を触っているのかを理解する。

 もちろん、それは硬い大地ではない…それなら?

 その答えは、クズハの甘い声で分かると言う物…そう、クズハの胸である。


 やってしまった…そう思った僕は、慌てて飛び起きる。

 そして…クズハの姿を確認して、僕は一瞬、動きが止まる。

 そこには、着物がはだけ呼吸を荒くするクズハの姿が見えた。

 しかも、クズハの大事な部分には何の障害物モザイクもない、一糸纏わぬ姿で横たわっていたのだ。


「ご、ごめんッ!クズハッ!大丈夫?」

「は、はい…私は大丈夫です。」

「そ、そっか…それなら良かった…。

 でも、その…その格好は、どうかと思うんだけど…。」

「す、すいません…基本的に、着物の下は何も付けないのが正しい着こなしでしたので、つい…。」

「い、いや、僕の方こそ…って、それは一旦、置いておくとして…。

 さっきから、お尻の方を気にしていた様だけど…何かあったのかな?」


 どうせ、既にグダグダなのだから、勢いに任せて聞いてみた。


「そ、それなんですけど…先程から、妙にお尻がムズムズするんです。

 いえ、正確には、尻尾の付け根と言った方が正しいのですが…。」


 そう言われて、僕は改めてクズハのお尻の方を見ようとする。

 だけど、流石に此処でマジマジと見る訳にはいかないので、僕はグッと我慢する。


「プリン、ちょっと来てくれ!」

ご主人様あなた、どうかしました?」


 僕を吹き飛ばしたプリンが5m程離れた距離を早歩きで寄ってくる。


「悪いんだけど、クズハの尻尾の付け根の所を見てやってくれないか?」

「えぇ、了解です。」


 僕の要望に、プリンは直ぐにクズハの尻尾の付け根を確認する。

 コレが僕だったら、青空の下、お尻に顔を近付ける…と言う行為から変態と呼ばれても可笑しくなかったかも知れない

 まぁ、プリンならば女の子同士と言う事で、問題はないだろう…たぶん…。


「ど、どうですか?何か変な事になって無いですか?」

「特に、コレと言って何も…ご主人様なら、もっと良くくれると思うけど…。」


 そう言って、プリンはニヤニヤしながら僕の方を見る。

 まったく…相変わらず、この手の悪戯を仕掛けてくるな…。


「はいはい、見れば良いんでしょ見れば…。」


 下手をすれば変態確定だと言うのに、プリンのヤツ…。

 それでも僕は、溜息を付きつつも、クズハの尻尾の付け根へと顔を近付けていくのだった…。

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