340ページ目…夢?

 風呂から上がった僕達は、すぐにご飯を食べた。

 もっとも、すぐにご飯を食べれる様になっていたのは、家の掃除を終えたクズハとアリスが、自分達のお風呂を後回しして作ってくれたお陰なのだが…。


 まぁ、昨日は色々あって、まともなご飯が食べれなかったからね。

 その所為か、ローラはいつも以上に食べてしまい、今では食い過ぎて動けなかったりする。

 つい『獣かッ!』ってツッコミそうになったが、実際に、獣なので仕方がないと諦めた。


「とは言え、本当なら今頃は魔族領で色々と戦ってる頃なんだよな…。」


 禁術に大怪我の所為で、戻ってきて休んでるとは言え、砦に残っている者達の事を考えると、少々、申し訳ない気がする。

 だからと言って、全て僕が背負う必要はないんだけど…ね。


ご主人様あなた、何か考え事ですか?」


 そんな事を誰もいないはずのリビングで思っていたら、急にプリンが声を掛けてきた。

 いったい、いつから居たのだろう…まぁ、今まで居なかったと考えるのが無難なのだが…。


「あ~…うん、ちょっと、これからの事を…ね。

 そう言うプリンは、うかない顔して、どうしたの?」

「あのッ!…いえ、何でもありません…。」

「いやいやいや、今の、絶対何か言おうとしたよね?

 そんな態度取られて何でもないって言われても、信じられないって!

 いったい、何があったんだ?」

「いえ、本当に何も…ちょっと、夢見が悪かっただけなんです…。」


 プリンはスライムである…その為、基本的には睡眠などと言う物は必要としない。

 そして、今までプリンが見た夢とは…以前、自分の死を予感した時の夢…。

 もっとも、プリン自身、復活の可能性に賭けて、準備万端にしたお陰で、なんとかギリギリの所で生き返る事が出来たのだ。

 そんなプリンが、夢見が悪いと言ったのなら、『はい、そうですか』と納得する訳にはいかないであろう。


「プリン、いったい、どんな夢を見たんだい?

 それとも、僕にも言えない事なのかな?」

「い、いえ…その様な事は…ご主人様あなたになら今穿いてる下着の色だって教える事が出来ます!」


 うん、知ってる…そもそも、プリンなら下着だけじゃなく、その下の裸体すら喜んで見せてくるからね。

 だけど、今、僕が知りたいのはプリンの下着の色などではない!

 あ…いや、そりゃ、ちょっとは興味はあるが…とは言え、今は、夢の話が優先事項だ。


「だったら、どんな夢を見たのかな?」


 夢の内容を知っていれば、もしかしたら回避出来るかも知れない。


「それは…その…。」

「プリン、もし話し難い内容なら、〖魔神化〗でも良いんだぞ?」


 そうすれば、プリンの記憶も僕と一緒になるんだから…。


「いえ、話します…話させて下さい!」

「うん、分かった…それじゃ、話してくれ。」


 そう告げると、僕はプリンをジッと見つめ、プリンの言葉を待つのだった…。


◇◆◇◆◇◆◇


「………と、言う訳なんです…。

 ですから…ご主人様、この戦い…もう、辞めませんか?

 どこか遠くに…遠く離れた安全な場所に逃げませんか?」

「魔王と戦うと僕が居なくなる…か。

 確かに、魔王と戦う以上、危険は存在する…いや、魔王以外でも戦うって事は、常に危険は隣り合わせだ。

 だけど…だからと言って、僕達だけ逃げて良い訳じゃない。

 いや、そうじゃない…むしろ、零とその彼女の魂を持つ僕達だからこそ、この戦いを終わらせなければいけないだと思うんだ…。」

「そ、そうですよね…。」


 プリンが俯いて、萎れた花の様に頭を垂れる。

 その姿を見て、僕は寂しさを感じた。


「そ、それに…さ、僕は死ぬんじゃなく居なくなる…だよね?

 だったら、どんな手段を使ってでも、僕は絶対にプリン君の元に戻ってくる、約束だッ!!

 あ…もちろん、プリンだけじゃなく、みんなの元に…ね?」


 僕は、慌てて訂正をする…そうしないと、嫉妬した他の嫁~ズが奇襲攻撃を仕掛けてきそうだと思ったからだ。

 だが、それを言うには、少しタイミングが遅かった。


「はい、もちろん分かってますよ、あ・な・た♪」


 プリンはそう言うと、トロ~ンとした目で僕に飛び付いて来る。

 最初、僕が『プリンの元に』と、で言ってしまった為、プリンのテンションが上がってしまった様だ。


「プ、プリンさん、ちょっと待とうか…ね?」

「ダ~メ、もう我慢出来なくなっちゃいましたから♪」

「いや、流石にリビングここは不味いってば…。」


 そう、ここはリビングなのだ…と、言う事は、普段、人が集まる場所である。

 そんな場所で、プリンとのバトルに発展した場合、その声を聞きつけ必ず援軍が来る。

 もちろん、僕の援軍ではなく僕を討ち取ろうとする敵軍に…だ。


「そうは言っても、身体は正直ですよ?」

「だ、だから…そんな場所、触るんじゃないありません!」


 既に瓦礫と化している理性で最後の反撃を試みる…が、


「もぅ…そんな事言う、お口はチャックしちゃいます♪」

「え?何を…モガッ!?」


 プリンの顔が近付いたと思ったら、僕の口をプリンの口が塞ぐ。

 その際、プリンの身体から、何故か甘いリンゴの様な匂いがした。

 あぁ、そう言えば、新しい石鹸を買ったんだっけ…。


 僕はその匂いに『あぁ、プリンは何て愛おしいんだろう…。』と思ってしまった。

 そして、そう思った瞬間、僕の身体から抵抗する力が失われる…。


「し、しまったッ!あ、あぁ~~~~~ッ!!」


 僕は慌てて再び抵抗を試みる…が、時既に遅し…。

 僕はプリンに一方的に攻撃される事になってしまったのだった…。


 え?敵の援軍はどうなったか…だって?

 そんなの、言わなくても分かるでしょ?


 何せ…朝方、干からびた僕がリビング転がっていたのだから…。

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