314ページ目…お食事タイム

 ファナル砦…此処は、魔族との戦いにおいて重要な施設である。

 当然、そこで戦う人達の為の施設なのだから、練習場…と言うより、訓練場か?

 また、それ以外にも色々とある。


 その一つが、ここ食堂である。

 ただまぁ、全員が一緒に飯を取ると言う事はない。

 何せ、何時、敵が攻めて来るかも分からない状況で、全員一緒だと致命的な事になりかねない。

 現に、先程も少数ではあったが、魔物と下級魔族レッサーデーモンが攻めて来ていたしね。


 いや、それ以前に、此処の食堂自体、そんなに広くはない。

 その為に、それぞれ決められた時間帯で取る事を義務付けられていると言う話だった。

 但し…砦に着いたばかりの僕達については、その限りではない。

 それが意味する所は…お腹が空いて食堂に来たのだが、ファナル砦に来たばかりの僕達は、まだ砦側に協力者として登録されていない事が原因で、僕達の分のご飯は用意されていないと言う事である。


 ここで重要になってくるのが、僕の無限庫インベントリと、プリンの〖胃袋〗である。

 では、どう言う事か…と言うと…。

 流石にプリンの〖胃袋〗では時間の経過を完全に止める事は出来ないが、それでも普通に鞄に入れてあるのとでは時の流れは段違いで、かなりゆっくりだ。

 一方、僕の無限庫では時の流れが完全に止まっており、収納した時のままの状態で取り出す事が可能である。

 もっとも、同じ収納系でも〖アイテムボックス〗の魔法であれば、術者の魔力の大きさで容量が変わる物の、時の流れは通常と同じにする事も可能なので、時間の経過を望む場合は、そちらを選んだ方が良い場合もある。


 つまり、僕の無限庫からは出来立てを…プリンの〖胃袋〗や〖アイテムボックス〗からは時間の経過した物…所謂、余熱で調理出来る料理を出す事が可能だと言う事だ。

 で、結局、何が言いたいのかと言うと…。


「なぁ…お前達、何喰ってんだ?」


 僕達が食堂の一角を借りて食事をしていると、一人の冒険者風の男が僕達に声を掛けてくる。

 もっとも、この砦には軍人か冒険者しか居ないのだから冒険者風…ではなく、冒険者なのだろう。

 ちなみに、軍人の場合、殆ど服装や装備が統一されているので、見分けが楽で良い。


「何って…カレーですけど?」


 どんな料理か、いちいち説明するのは面倒なので料理名だけを教える。


「へ~…その料理、カレーって言うのか?

 何か、すげー食欲を刺激される匂いって言うか、美味そうな匂いがプンプン匂ってくるんだが…少し分けてくれねーか?」

「え~…すいません、お断りします。

 そもそも、これは砦で出される料理ではなく、自前の料理なんですよね…。

 それに…は冒険者なんですから無料タダで分けるなんて、あり得ないですよね?」


 そう…冒険者とは、ギブアンドテイクな存在と言っても過言ではないのだ。

 つまり、欲しいのなら、それに見合った物を渡すのが常識だ。


「とは言ってもよ…確かに、俺達は、この砦に稼ぎに来てるぜ?

 だけどよ…まだ、報酬なんて一賤貨も支払われて無いんだ、お前達に支払う物なんてねーぞ?」


 いや、それなら普通に自腹を切るとか、交換用の物を用意すれば良いだけの話。

 本当に無一文でこんな場所に来るはずがないのだ…いや、一部、そんな人もいるかも知れないが普通は居ない。


「そうですか…だったら、素直に諦めて下さい。」

「そう言うなってな…こんな美味そうな匂い漂わせてんだ、少しだけで良いから分けてくれても罰は当たらねーんじゃねーか?

 そもそも、こんな食堂で、お前達だけ、そんな美味そうな匂いの物を喰おうとしてる方がダメだろ?」

「そう言われましても…これは僕達のご飯ですし…。

 何より、僕達の食事が用意出来ないと言われたから、自分達で用意したまでの事…それを、とやかく言われる謂れはないですよ?」


 だが…それでも、その男は諦めきれなかったのか、急に怒りだした。


「あークソッ!んな、ご託は良いから、さっさとそれを寄越せって言ってんだろうがッ!」


 そう言って僕の胸ぐらを掴んで脅しに入る…だが、次の瞬間…。


「ヌベラーマッ?!」


『ドガシャンッ!!』


「何をやっている貴様ッ!!この砦の中で恐喝行為をするとは何事か!

 何だったら、地下牢に入って貰っても構わないんだぞ?」


 あれ?この騎士の人、何処かで見た事があるような…。


「それと、お前達もお前達だ。

 何故、自前の料理をこれ見よがしに食べているのだ?

 それに、砦では決まった時間に料理を食べれる手筈になっている。

 そんな事をするから、この様な事になるのではないのか?」

「は、はぁ…でも、僕達は先ほど着いたばかりで、順番どころか登録すらまだ終わってないんですよ。

 その為、受付で注文しようとしたらチケットがないからダメだと断られたんです…。

 だったら、自前で食べるしかないじゃないですか?」


 その言葉で騎士の人?が一考する。

 ぶっちゃけ、騎士なのか軍人なのか教えて欲しい所だ。


「ふむ…まぁ、そう言う事なら貴様達の言い分は一理ある…か。

 だがな?そこで気を失ってる男の言う通り、その匂いは些か問題だ。

 正直、この私ですら食した事のない料理ではある事は確かな上、その者の言っていた通り確かに食欲をかなり刺激する匂いであるのも確かだ。

 それを、この様な戦場で食べようとするのは、どうかと思うのだが…反論はある?」


 って、言われましてもね?これが僕達の普通だから、何が悪いのか分からないんだよね…。


ご主人様あなた、だったら、こっちの料理にしたらどうですか?」


 と、助け船を出したのは嫁~ズの中でも正妻の地位を確保しているプリンだ。


 だが、そのプリンが出した料理が、これまた問題のある一品だった…。

 おそらくは〖胃袋〗か取り出されたであろうステーキ…それを火の魔法を使い焼いたのであろう。


 周囲に立ちこめる、強烈なニンニクと胡椒と香草の匂い…。

 そして、肉厚なお肉から香る、微かな甘い匂い…それだけでお腹の虫が飯を食わせろと騒ぎ出す事間違いない一品である。

 しかも、豚肉に見えるが只の豚肉などではなくオーク肉だ…しかも、普通のオーク肉ではなく将軍級ジェネラルクラス以上でしかドロップしない、最高級と呼ぶに相応しい稀少レアなお肉だったりする。

 それを惜しみなく、肉厚なステーキにしているのだ。

 仮に素人が肉を焼き、多少、焦がしたとしてもその肉が美味しい事は何ら変わる事がない決定事項なのは請け合いと言えるほどのスペシャルな肉なのだ。

 そんなのを、バッグから取り出したら、周囲の目の色が変わるのは当然の事だ。


「お、おい…今の見たか?

 あの女、鞄から料理を出したぞ…。」

「バカ、それ言ったら、あいつらの喰ってる料理、全部そうだろ?

 それに、女の方だけじゃなく、男の方だって料理を鞄から出してたんだぞ?」

「はぁ?もしかして、アレって魔法の鞄マジックバッグか?」

「マジかよ…只でさえ高価で俺らみたいなヤツには手に入らない一品なのに、それも二つとか…。」

「ちげーよ、あの男の喰ってた料理の皿、メイド服のヤツが、自分の鞄に仕舞ったの見てなかったのか?」

「って事は最低でも3つ以上?はぁ~?ありえねーどんだけ稼いでんだよ…。」


 そこまで話が聞こえてきた時、更に聞いた事のある声が聞こえてきた。


「まったく…何の騒ぎかと思って見てみれば…あの人は…。

 先程、注意したばかりだと言うのに…。」


 あ、レスターがこっち見てる…ってか、頭抱えてないか?

 もしかして、頭痛でも起きてるのか?


「…もしかして、お前達はどっかの王族か何かか?」


 と、その様子を見ていた先程の騎士の人。


「いえ?僕達は、ただの冒険者ですが…。」

「そうか…スマンが、冒険者カードを見せて貰っても良いか?」


 男は、そう言うと僕に手を差し出す。

 早く見せろと言いたいのだろう…。

 で、僕が取った行動は…と言うと…。


 レスターの方を見る…だったりする。


 それに気が付いたレスターは、僕に手で合図を送る。

 何々…冒険者カードを、そいつに見せろ?

 それに、いつも使ってる方じゃなく、特殊任務用の…だと?

 何故、レスターがソレを知っているのかは別として、こんな所で、ソレを使って良いのか?


 僕は改めて、レスターを見る…しかし、レスターの反応は、コクンと肯くだけ…。

 つまり、特殊任務用の冒険者カードを見せて良いと言う事だ…。

 僕は仕方なく、無限庫から冒険者カードを取り出して、男に見せる。

 もちろん、空中から取り出すのではなく、鞄から取り出しました…と言う格好で…だ。


「え~何々…パーティー名【神殺し】の『セブン・スター』…クラスは…S級冒険者だとッ!?」


 その冒険者カードを見た男が震え出す。


 そりゃそうだ…そもそも、S級冒険者なんて、基本的に一般人は見る機会なんて皆無と言って良いほど、チャンスはない。

 そして、そのS級冒険者の中でも都市伝説となっているのが、このS級冒険者『セブン・スター』である。


 そもそも、この『セブン・スター』と言う名前には実は人に言えない様な問題がある。

 と言うのも、この名前を使う冒険者と言うのは、一般的に知られては居ないが、数多くいるギルドマスターの中でもギルドマスター統括からの直接依頼の時にしか使われないからだ。

 当然、その実力もピカイチ…S級を名乗らせて良い程の実力者とお墨付きを貰った様な物なのだ。

 そんな冒険者が、何の連絡も無し砦の防衛に参加…そりゃ驚くなと言う方が無理な話って事だ…。


「あの…それ、大事な物なんで、もう返して貰って良いですか?」

「あ、あぁ…まぁ、その何だ…いきなり怒鳴りつけて悪かった…。

 それから…チケットの件は、早急に手配するので今日の所は、迷惑を掛けるが我慢して欲しい。」


 そう言って、S級と書かれている冒険者カードを返してくれる。


「えぇ…こちらの方こそ、ご迷惑をお掛けしました。

 とりあえず、こちらも今は『』を食べるので許して下さい。」


 僕はそう言うと、プリンが出したなステーキを鞄に仕舞い、代わりに、一般的に食される様な安物のステーキと交換する。

 もちろん、鞄から取り出した様に見せている。

 それでも、安物のステーキとは言っても、スパイスやらはケチるつもりはないので、高級ステーキとまでは行かないまでも、普通ではないのは確かである。


「は、ははは…ま、まぁ…もめ事を起こさない様にしてくれ…。」


 そう言うと、騎士の男は触らぬ神にたたり無し…と言う様な態度で、その場を去っていく。


「おい、見たか…あの鬼教官が尻尾巻いて逃げたぞ…。」

「マジかよ…あんなオーガ見たの初めてだぞ…。」


 オーガ?食人鬼とも呼ばれる魔物の事か?

 だけど、彼は人間だったから…それほど怖いと言う意味でのあだ名なのかもしれない。

 しかし…これって、絶対に目立ってるよな?

 レウターのヤツ…本当に冒険者カード見せて良かったのか?


 絶対に間違っていたのでは?と思いつつ、僕達は食事を再開したのだった…。

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