313ページ目…冒険者ギルドの『暗部』

「改めて自己紹介をさせて貰おう…僕の名前はレスター…レスター・ハーミットだ。

 で、わざわざ場所を移動して貰った理由なんだが…僕は冒険者ギルドの裏の顔である…暗部なんだよ。」

「へ、へぇ…。」


 確か、ギルドの暗部と言うと…犯罪者となった冒険者を秘密裏に始末したり、情報を集めたりする組織だったはず…。


「で、その暗部が何で此処に?

 それに、あんたが暗部なら、さっきのコーネルってヤツも暗部なのか?」


 レスターと仲が良い様に見えるので、同じ仲間かと思ったのだが…。


「いや、あいつは暗部じゃない…って言うか、僕が暗部と言う事すら知らないはずだよ。

 で、何で此処にって話だったけど…暗部には情報を集めるって言う業務もあるんだよ。

 となれば、当然、魔族との戦争が始まってんだから、戦況報告をする人が必要になってくる。

 まぁ、ぶっちゃけ、その損な役割を押し付けられたのが僕…って訳だ。」

「なるほど…ね。

 で、話を変えるけど、その暗部が僕達に何か用なのか?」

「ん?何で?」

「何で…って、そりゃ…用もないのに、わざわざ声なんて掛けないだろ?

 しかも、人目に付かない様な場所に移動して、内緒話をしてるんだから…。」

「あぁ、確かに…まぁ、仮にもラオンさん所の秘密兵器なんだから、それ位、気が付くか…。」

「いや、気が付くか…じゃないだろ?

 むしろ、気が付かない方が可笑しいと思うんだけど?」

「いや~、それが実は脳筋の人が多くて…高ランクの冒険者でも、あまり気が付かない人が結構いるんですよ…。」

「そ、そうなんだ…結構、大変なんですね…。

 で、そろそろ本題に入りませんか?」

「あぁ、そうだね…少し、不愉快な気分にさせると思うが良いかな?」

「あ~…逆に聞きますけど、悪いって言ったら、止めるんですか?」

「ははは…止める訳ないじゃないか!」

「だったら、その確認必要ないですよね?」


 僕は呆れながら、レスターさんに告げる。


「それがそうでもないんだよね…先に断っておくと、不愉快な思いをさせても多少は我慢して貰えるからね。

 だってさ…先に確認しておかないと、下手すりゃ、いきなり斬りかかってくるヤツも居るんだぜ?」

「でも、そんなヤツが居ても、此処でピンピンしてるって事は、あんた自身、相当な使い手…ですよね?」


 しかも、それを知っていながら、同じ事をするのだから、余程、自分の腕に自信がなければ出来ない所業だと思う。


「さぁ?それはどうかな?」

「まぁ、良いですよ…で、本題どうぞ?」

「了解…さて、ラオンさん所の秘密兵器である君に質問だ。

 君なら、この魔族達の動きをどう読む?」

「…どうとは?」


 あまりに漠然とした質問なので返答に困る。


「惚けなくて良い…こっちも、少しは君の事を調べさせて貰っている。

 それを踏まえての質問だ。」

「なるほど…そう言う事なら、真面目に答えないといけませんね…。」


 彼が何処まで調べているのか分からないが、かなり深い所まで調べが付いているかの様な物言いである。


「そうですね…はっきり言って、魔族達の動きは可笑しいと思います。

 そもそも、上級魔族どころか中級魔族も姿を見せていない。

 そこら辺の、一山幾らのの冒険者達でさえ、努力して頑張れば倒せる下級魔族ばかり…。

 しかも、数もまばら…連携も何もない状態で攻めてこられても、それは脅威じゃないですよね?」

「それは…つまり?」

「陽動…ですかね。」

「くそッ!やっぱり君も同じ意見に辿り着くか!

 しかし、魔族領と人間領を繋ぐルートは此処しかないし…。」

「あの…一つ聞きたいんですが、魔族達の動きで可笑しな事がなかったですか?」

「可笑しな動き…例えばどんな事?」

「攻撃を加える前に誰かを捜している…みたいな?」

「いや、今の所、そんな報告は受けていないが…。

 何か、心当たりでもあるのか?」


 つまり、僕を探している訳ではないと言う事か…そうなると、ますます意味が分からなくなる。


「いえ、ちょっと気になっただけですから…。

 それで、話はこれで終わりですか?」

「いや、あと一つ…まぁ、これは本来なら冒険者としては禁止事項に近いんだけどね~。

 ずばり!あんたがラオンさん所の秘密兵器と呼ばれる理由だ。

 あ、ちなみにコレに関しては冒険者ギルド本部、ギルドマスター統括から直々に言われた確認命令だから、逆らった場合、高ランクの冒険者でも資格剥奪だって有り得るから、よく考えて発言してくれたたまえ。」


 先程までのおちゃらけた雰囲気から一変、キリッと真面目な顔になり問いただしてくる。

 なるほど、これが本当の姿と言う事か。

 とは言え、本来であれば、僕の事を詳しく知ろうとするのは禁止事項タブーである。


「なるほど…ね。

 だけど、素直にハイそうですか…と言えないのが現状なんですよ。

 それこそ、冒険者の資格を剥奪されたとしても…ね。」

「そうですか…分かりました。

 ですが、納得いく理由を教えて貰っても良いですか?」

「簡単な事ですよ…それを言うと、僕だけじゃなく嫁~ズ達の命すら危険に晒される事になる。

 まさか、自分の命より大事な人達を、ギルドの命令だからって危険に晒すバカはいないでしょ?

 それでも教えろと言うなら、冒険者なんて辞めた方がマシって物ですよ。

 そもそも、冒険者じゃなくても、やろうと思えば同じ事は出来るんですから…ね?」

「なるほど…確かに、命に関わる事と言われたら納得するしかないですね。

 まぁ、個人的には力ずくでも喋らせたい所ですが…残念ながら、自分には力不足の様ですし…今回は素直に諦めましょう。

 ですが、こちらも貴方達を監視対象としますので、ボロを出さない様に注意した方が良いですよ?」

「あぁ…せっかくお人好しさんが注意してくれたんだ、注意するよ。

 まぁ、その時にならないと出来るかどうか分からないけど、努力だけはさせて貰いますよ。」


 こうして、レスターと別れた僕達は、ファナル砦の探索を再開するのだった…。

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