267ページ目…ドラゴニュート【3】

 ラオンさん然り、ドラコさん然り…やはり、普通の人?にとって〖魔王化〗と言うのは、色々と問題がある様だ。


 とは言え、流石に魔王化したとは言え、ダンジョンポイントの補充を一人で賄うのは無理があったみたいで、かなり身体がかなりだるい…。

 まぁ、それでもドラコさんは、僕が勇者セイギ…じぃちゃんの孫と言うだけで、魔王と化した後でも、僕を信じてくれているのか攻撃してこないだけでも、ありがたい。


「それで…何故、セイギの孫である君が魔王なんかに?

 それに…魔王でありながら、何かこう…禍々しい力を抑えている様な…。」

「えっと…詳しく話すと長くなるので手短に話そうと思いますが、じぃちゃん…勇者セイギが魔王を倒した時、魔王の魂を半分に分けて、当時のお姫様…まぁ、僕のばぁちゃんなんですが、その身体の中に封印したのは知っていますか?」

「あ、あぁ…確か、魔王の魂だけは俺達の力では倒せないからと…完全復活を避ける為に、やむを得ず封印したと言うのは知っているが…。

 と、言うより…その封印術を使ったのが私とエルフのシールズだからね。」

「そうなんですか?」

「あぁ、君が何処でその事を知ったのかは私には分からないが…その封印を施した本人が言ってるから間違いないよ。」


 へ~…じいちゃん一人で封印した訳じゃないんだ…。

 何となく、何でも一人でこなしてしまうイメージがあるだけに、ちょっと新鮮な感覚である。


「ついでに言うと…だ、君のお婆さんがセイギに付いていったのには、セイギが好きだった…以外に、同じ世界に魔王の魂があると、もう片方に惹かれあって、復活する畏れがあったからでもあるんだ…。

 もっとも…あのお転婆姫は、駆け落ち気分で旅立ったが…な。」

「お転婆姫…ですか?」


 お転婆姫と聞いても、僕には、今のばぁちゃんしか知らないので想像出来ないでいた。


「あぁ、少なくとも俺の知る限りではセイギの野郎に付いて、魔王軍…不死者アンデッドの軍勢との戦闘に参加する事もあったな…。」


 そう言って、ドラコさんは遠い目をしながら、うんうん…と頷いて、思い出に浸っている様だった。


「あの…1つ聞いて良いですか?」

「ん?どうしたのかな?」


 僕の声に、思い出から帰ってきたドラコさんが尋ねてくる。


「それで…そもそもドラコさんは、何でこのダンジョンに?」

「何で、とは?先ほども言ったが、俺がダンジョンに来たのは、魔族に対抗する為の武防具を作り出す為だな。」

「でも…実際に、そんな装備なんて作り出せたんですか?」


 そう…その事が疑問だったのだ。

 そもそも、そんな高性能な装備が、このダンジョンから手に入るのであれば、情報を知っている一部の者達が、こぞって回収しに来る筈なのだ。


 そして、そんな装備が入手出来るのであれば、このダンジョンが、こんなに寂れる事はなかったはずなのだ…。

 つまり、僕の考えでは、魔族に対抗する武防具は完成しなかったのでは?と思うのだ。


「あぁ、その事か…その点は心配無用だ。

 ダンジョン内の魔物をリポップを犠牲にしてまで作りまくったからな…かなりの量を作り出す事が出来たよ。」

「その割には…その…こう言っては何ですが、寂れてますよね?」

「そ、そうなんだ…実は、それが問題でね?

 下手に上層で出そうものなら魔族達に奪われてしまい魔族を倒す事が出来なくなる。

 かと言って、逆に下層過ぎると今度は冒険者達が回収出来なくなる…と言った、悪循環に…。

 どの階層からドロップをするのが良いか…と考えていたら、いつの間にかこんな事になってて…。」

「で、肝心の魔物がリポップする事が出来るだけのダンジョンポイントが稼げなくなった…と?」

「あ…あぁ、恥ずかしながら、その通りだ…。」


 それを聞いて、つい、僕はツッコミを入れてしまう事になる。


「えっと…何て言うか…ドラコさん、貴方…バカですか?」

「何ッ!?俺がバカだと!

 幾らセイギの孫だからと言っても、言って良い事と悪い事の分別は持って貰おう!

 いくら温厚な俺でも、バカにされるのは許せん!」


 ドラコさんはそう言うと僕の胸ぐらを捻るようにして僕の身体を持ち上げる。


「落ち着いて下さい!確かにバカとは言いましたが、所謂いわゆる、ツッコミと言うヤツです。」

「ツッコミ?…あ、あぁ…セイギがたまに言ってたヤツだな?」

「へ、へぇ~じぃちゃんも言ってたんだ…。」

「そ、それじゃ…さっきの言葉は、どう言う意味だったんだ?」


 お、少し冷静になったのか、話を聞く気になった様だ。


「良いですか?どれだけ良い物を用意しても、その使い手が居なければ意味がありません。

 こっちの世界では何て言うか分かりませんが、元の世界のことわざに『宝の持ち腐れ』なんて諺があります。

  役に立つ物を持ちながら、使わないでしまっておく事…や、 才能・手腕がありながら、それを活用しない事って意味です。」

「なるほど…確かに、俺が作り上げた聖なる武防具が、人の手に渡らないのだから宝の持ち腐れだな…。

 だが、それを知った所で、どうする事も出来ないんだぞ?」

「ドラコさん、それは違います…これまではそうだったかも知れませんが、少なくとも、今は違います。

 そもそも、魔物のリポップ分までダンジョンポイントを消費したのが間違いだったんです。

 ですが、先程、僕が〖魔王化〗する事で、補充しました。

 なので、そこそこの魔物を作り出せば、再びダンジョンに人を呼ぶ事が出来ます。」

「そ、そうなのか?いや、だがしかし…ダンジョンが生きていると言う事を誰も知らないのであれば、結局は同じ事なのでは?」

「…まだ分かりませんか?僕は冒険者なんですよ?

 なら、僕が冒険者ギルドに、このダンジョンは生きていて、さらにダンジョンが活動を再開した…しかも、対魔族特殊な装備が手に入ると言えば、魔族が本格的に活動を始めた今、このダンジョンに装備を求めて人がやってくるはずです。」


 まぁ、魔族が暴れ出した現状を見れば、そんな装備があるのであれば、必然的に冒険者や軍隊に配備する為に、こぞって来るだろう。

 それ故、絶対に心配いらないとドラコさんに伝えたのだった…。

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