241ページ目…帰還

「「「ただいま~!」」」


 とある村での盗賊事件の翌日…の、夕方頃の事。

 やっと自宅であるメルトの町の屋敷に戻ってきた。


 本来ならば、〖空間転移ゲート〗の魔法で、一瞬で戻って来れるのだが、今の僕達はとして動いているので、アリバイ工作の為、そう言う訳にはいかない。

 なので、メルトの町付近までは車で帰り、その後、馬型のゴーレムに引かせた馬車に乗ってメルトの町に戻ると言う手間を掛けていたりする。


 もっとも、移動の殆どを車で移動している時点で、色々とアウトかもしれないが…。

 そもそも、この世界には車がないから、町の中まで車で移動すると、どっかの貴族に見付かるとトラブルに発展しかねない。

 そんな訳で、手間暇掛けて長い道のりを、のんびりと帰ってきたのである。


「皆様、お帰りなさいませ。」


 僕達が帰って来たのを知ると、ブラウニーであるアリスは、僕達を笑顔で迎え入れてくれる。

 ただし、その頬は若干赤い…。


「あれ?ローラは?」

「それが…いつもの様に町の方へ…。」

「あぁ、また買い食いか…。」


 食いしん坊のローラは、どうやら、お気に入りの串焼きのお店に買い食いに行ってるみたいだ。


「って、お小遣い足りてるのか?」

「はい、それにつきましてはご自分でギルドでクエストを受けてるようですので問題ないと思われます。」


 ふむふむ…まぁ、あそこのオッチャンなら、最悪、ツケでも許してくれるとは思うが、迷惑掛けていないのなら大丈夫だろう。


「なるほど、それなら問題ない…かな?

 さてと…戻ってきたばかりで悪いんだけど、僕はちょっと冒険者ギルドまで行ってくるよ。」

「え?ご主人様、今からギルドへ行かれるのですか?」


 どうやら、プリンは明日、報告に行くと思っていた様だ。

 もっとも、僕としては、ギルドへの報告を明日にした場合、動くのが面倒くさくなる可能性があるので、その前に片付けた方が良いと思ったのだ。


「うん、どうせ行かなきゃいけないから、一息入れる前に、このまま報告に行ってくるよ。

 とりあえず…プリンとクズハも疲れてるだろうし、お風呂にでも入って休んでれば良いよ。」


 僕はそうプリンに返事をするとギルドへ向けて、歩きだしたのだった。


◇◆◇◆◇◆◇



 ギルドに入った僕は、いつもの受付嬢のポプリさん挨拶をする。

 当然ながら、依頼の報告の為だ。

 まぁ、正直な話、依頼の内容に対して成功か失敗か、判断が出来ないのだが戻ってきたからには報告しないと言う選択肢はない。


 そんな訳で、いつもの様にギルドマスターの執務室まで案内して貰った。

 個人的には、もう案内されなくても場所は分かってるので案内はいらないのだが、規則なので仕方がない。


『コンコンッ』


「どうぞ。」

「お久しぶりです、ただいま戻りました。」

「あぁ、お前か、お疲れさん…。

 すまんが、そこに座って待っててくれ。

 もう少しで、この書類が終わるから。」

「あ、はい、了解です。」


 明らかに、ギルドマスターが冒険者に対する態度ではないが、今回の依頼自体、として依頼された様な物なので問題がない。

 それに、コレが普段の僕達の関係なのだから、今更だ。


 それから数分後、書類を終わらせたギルドマスターであるラオンさんは僕の前の席に座った。


「待たせてすまなかった…それで、どうなった?」

「はい…とりあえず、まず結論から言うと怪しい動きをしていた者に関しては、黒か白かは分かりませんでした。

 それを踏まえて報告いたします。」

「あぁ、頼む…。」

「えっと…まずはですね、僕達が聖王都に着いてからなんですが…。」


 その後、所々、詳細な説明も踏まえて報告したのだが…。


「まさか、魔族とは信じられん…いや、君の報告が嘘と言っている訳ではない。

 いや、信じられないのではなく信じたくないと言った方が正しいな。

 300年以上前に滅んだとされる魔族がいただけではなく、が倒すのに苦労すると言うのが…。

 それに、プリンさんまで…。」

「えぇ…正直、僕も驚きました…。

 でもまぁ、プリンも無事に取り戻せましたから、最悪の事態は回避出来ました…。」

「それはそうと、君は…いや、君達は、一体何処まで強くなるつもりなんだ?」

「さぁ?僕に言われても何と答えて良いのやら…。」


 そもそも、いつもの事だが、こちらとしては好きで強くなってる訳ではないのだ。

 飛んでくる火の粉を払っただけ…と言う言い訳は有効なのだろうか?


「まぁ、そりゃそうだ…としか言えないが…。

 ちなみに、君の言う〖魔王化〗よりも危険な力なんだろ?」


 報告の過程で、ラオンさんは友人としてではなく、ギルドマスターとして会話する事にした様だ。


「え、えぇ…今の所、力が漏れない様にするのが精一杯で、制御する事すら難しいですね。

 先程も言いましたが、魔族を一撃で消滅させる程の力を、羽虫を追い払う程度の感覚で振るってしまいますから…。」

「ははは…で、これからどうするんだ?」


 ラオンさんが乾いた声で聞いてくる。


「そうですね…しばらくは、ダンジョンの方で身体を慣らそうかと思います。

 じゃないと、何かの拍子に、誤って力を解放したら、この町、滅んじゃいますから…。」


 独り言の様に呟いた声は、しっかりとラオンさんの耳に届いた様で

顔色が悪くなった。


「あ、そうだ…なんだったら、今からダンジョンへ一緒に行きませんか?

 今なら〖空間転移〗で行けば、誰にもバレずに力を見せれますよ?」

「そ、それは…ちょっと遠慮しようと思う…。

 流石に、お前の〖魔王化〗にある程度は慣れたとは言え、そんな力を目の当たりしたら、正直、正気でいられる自信がない。」


 と、ラオンさんが答えてくる。


「そうですか…ちょっと残念です。」

「ま、まぁ、何だ…ちゃんと制御出来る様になってから頼むよ…。

 私は、まだ死にたくないからな…。

 そうそう、今回の…裏の依頼でもあるが、予想以上に合否の判断が出来ないのだが、『ゼロの使い魔』の陰謀を阻止したと言う事で成功と言う事にしようと思う。

 まぁ、仮に失敗だった所で、報酬も出るしペナルティーもない訳だが…魔族の存在の情報が手に入った訳だし、成功の方が良いだろう。」

「えぇ…罰則ペナルティーが何もないとは言え、やはり失敗よりは成功の方が良いですからね。

 でも、自分で言うのも何ですが…こんな報告、信じちゃって良いんですか?」

「ん?もしかして、嘘の報告なのか?」

「いえ、嘘じゃないですけど…。」

「だろ?だったら問題ないだろ…。

 まぁ、強いて言うなら…それだけ、君を信頼してるって事だ。

 ちなみに…君があちこちで色々とやらかしてくれているから、既に上層部では君はうちのギルドの最終兵器って言われてるからな?

 これからは今以上に、無茶はしないでくれよ?」

「さ、最終兵器ですか…既に人扱いじゃないんですね…。」

「いや…魔王化するヤツがと言う枠に収まるのか?って話だろ。」

「いや、まぁ…そうなんですけどね…。」


 だって、魔王化すると人族じゃなくスライムになるし…。


「ま、まぁ…とりあえず、今日の所は、これで帰ります。」


 僕はそう言うと、部屋のドアを開けて出て行こうとする。


「あ!そうそう…もしかしたら、ダンジョンを改造するかもなんで、協力お願いしますね?」


 そして、わざと聞こえ辛い様に、小声でそう言うと、ドアを締める。

 そして…ドアが閉まる前に、ラオンさんが焦った様に『ちょっと待て、無茶するなと言ったばかりだろうがッ!』と叫んだ声が聞こえた気がしたのだが、聞こえなかった事にしようと思ったのだった…。

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