227ページ目…魔族との戦い【3】

 無詠唱が出来る僕にとって、詠唱とは基本的に無駄な行為だ。

 だけど、この詠唱と言う行為、実は魔法を使う際に一番大事な『想像を創造』する為のイメージをより明確にする行為であるとも言える。

 そもそも無詠唱とは、詠唱で作り上げるイメージを瞬間的に作り上げる技術であって、そのイメージが無ければ無詠唱で魔法を使う事は出来ないのだ。


 そして、僕が敢えて詠唱する理由…それは、僕がその魔法を知らないから…否、新しい魔法を作り出そうとしているからに他ならない。

 つまり、もしかしたらこの世界にもあるのかも知れないが、僕は魔族を倒す事の出来る魔法を作り出そうとしているのだ。

 そして、数秒の後、その詠唱が完成する。


『バシュッ!』


 解き放たれる強力な魔法…そして、その威力に吹き飛ぶ右腕…。

 ただし、吹き飛んだのはだった。


 そう…僕が作り出した魔法は不完全な魔法で制御に失敗した。

 完全に発動する前に、その魔力が逆流して僕の右腕を破壊して吹き飛ばしたのだ。

 そして、その数瞬の後、あたりに響き渡る不快な声…。


「ギャハハハハ!何だ?俺様に敵わないと見て、自殺でも謀ろうってのか?

 そんな事しなくても、優しい俺様がきっちり殺してやるから安心しな?

 ギャハハハハハハハハッ!!」


 相変わらず鬱陶しい事この上ない…が、今はそれどころではない。


〔プリン、失敗した原因は?〕

〔おそらく、魔力を流す道が不完全だったからだと…もしくは、術式に間違いがあったのかも知れません。〕

〔分かった…なら、そっちの制御はプリンに任せた。〕


 僕は再び呪文の詠唱に取り掛かる。

 そして、再び吹き飛んだはずのを魔族に向ける。


「ギャハハハハ!って、お前、さっき右腕が吹き飛んだんじゃ!?

 何故、魔族でもないお前が一瞬で傷を治せるんだ、えぇッ!!」


 下品と言える様な笑いを止め、明らかに怒りの籠もった声で僕に聞いてくる。

 なので、素直に答えてやる事にする…ただし、バカにしたような呆れた声で…だが。


「はいはい、わめかないの…別に瞬間回復なんて、魔族の専売特許って訳じゃないだし…魔族以外に、それ瞬間回復を出来るヤツがいたって別に不思議でも何でもないんだからさ~。」

「てめぇ、人族家畜如きが魔族である俺様に舐めた口聞いてくれてんじゃねーか!

 あぁッ!! ぶっ殺されてーのかッ!」


 うん、最初から分かっていた事だけど、物の見事に安っぽい挑発に引っ掛かったラドル君…。

 何て言うか…もう、チンピラと言うかヤンキーと言うか…カス感満載の痛い子だ。

 もっとも、その頭の弱さと能力は別物で危険極まりない物であるので油断する事は出来ないのだが…。


 ちなみに、僕の右腕が一瞬で回復したのは簡単な話。

 吹き飛んだ右腕をプリンが触手で回収、その後、吸収して、何事も無かったの様に再び右腕を生やしただけの話である。

 まぁ、スライムだから出来るお家芸とも言えるが、魔族ラドルに教えてあげる義理はない。


 何はともあれ、僕に不用意近付いて来た、おバカ丸出しのラドル君に完成してる魔法を解き放つ。


「〖魔法:精神崩壊アストラル・ブレイク〗ッ!」


 次の瞬間、ラドルは転移して魔法を躱す。

 そして、空間の歪みを感じた所に視線を向けると体を半分以上消滅させていたラドルが現れる。


「あ、危ねーな…まさか、そんな魔法を隠し持っているとは…。

 だが、その魔法の威力も射程も覚えた…もう、二度と喰らわねぇ!

 最後のチャンスを逃した事を、死んで後悔するんだなッ!」


 そう言って、僕に〖魔法:火球ファイアーボール〗を数発撃ち込んでくる。

 しかし、俺は、普通に移動して避ける。


「てめぇ、何避けてんだよ!ちゃんと当たりやがれ!」

「いやいやいや…攻撃されてんだから、普通は避けるだろ?」


 しっかし、よく体の半分以上失ってるのに元気だな…と思ったら、いつの間にやら元の姿に戻っている。

 但し、先程から飛んでくる火球はと言うと、正直な話、最初の時に比べて威力がお粗末な物になっているのが分かる。


 ぶっちゃけ、まともに喰らっても大してダメージ喰らわない様な気が…。

 とは言え、こちらもまだ先程使った魔法のダメージが回復していない。

 腕こそ吹き飛ばなかった物の、体のあちこちに裂傷を受けたのである。


〔すいません、私が制御に失敗した為に…。〕

〔いや、プリンの所為じゃない…そもそも俺一人だったら、もっと酷い事になってたんだから気にしない。

 それに、プリンがいなければ俺は魔族に殺されていたんだから、プリンはもっと自信を持って良い。〕

〔…はい!今度こそ成功させてみせます♪〕


 プリンはそう言うと、回復魔法を発動させ俺の身体…否、俺達の身体を急速に回復させる。

 そして、数秒後には無傷となった僕達の姿がそこにはあったのだった…。

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