153ページ目…疑問

 冒険者ギルド主催のオークションから数日が過ぎ、ギルドから金貨70枚以上のお金を手に入れる事となる。

 とは言っても、そのお金は直接手に入るのではない。

 ギルド主催である為、直接貰えるのと思っていたが、実際には銀行振り込みとなっていた。

 ただし、この世界には銀行と呼べる物はなくギルドが代行しているのだが…。


 では、どの様なシステム化と言えば、ギルドカード=銀行通帳と言う様な形式だ。

 その為、ギルドでお金を降ろすと言う形になるが、多額のお金を降ろした所を見られていて、帰りに襲われる…なんて事もあるから注意しろとラオンさんに言われてしまった。

 なので…現在、僕はドキドキしながら帰っていたりする。


 臆病者と言う事無かれ…18歳になったばかりの子供が金貨70枚以上…日本円にして7000万円相当の大金を持っているのだ。

 普通に考えて、まずあり得ない状況なのだ。

 その為、僕の後ろを歩く人の気配がすると、つい振り返ってしまう。

 他の人が見たら、見るからに不審人物と言って良い様な態度だ。


 もっとも、この場にプリンがいればそんな不安も無くなるのだろうが…残念ながら、プリンは家でお留守番だ。

 と言うのも、ダンジョンでプリンが魔神剣を使った際に負ったダメージがまだ回復していないのだ。

 もともと、この世界のスキルを組み合わせて作った、本来ならば存在していないスキルの為、〖自己再生〗を持つプリンでも、ダメージが想像以上に回復しないのだ。


「そう言えば…あの時、プリンが…。」


 ふと、僕が死にそうになった時の事を思い出す。

 あの時、プリンも危険な状態だったのに助けてくれたのだ…ならば、あの時と同じ事をすれば…プリンの怪我も治るのではないだろうか?

 可能性があるならやってみる価値は十分ある…僕は、大金を持って怯えていたのも忘れ走って家へと向かうのだった。


◆◇◆◇◆◇◆


「プリン!プリンはいるかッ!!」

「あら?お帰りなさいませ、御主人様。

 プリンさんでしたら、先ほど寝室に向かわれたのをお見かけしましたが…。」

「そっか…サンキュ、アリス!」


 僕はアリスにお礼を言うとプリンの寝室に向かう…だが、その途中で妙な感覚に陥る。

 そう…それは、僕の部屋の前を通った時に、感じた違和感からだった。


「まさか…ね…。」


 僕は、その直感とも言える感覚に従い自分の部屋のドアを開ける。

 僕は出掛ける前、確かに部屋の鍵を掛けたはずだ…だが、今は鍵が開いている…。

 だとするなら…誰かが部屋に入ったと言う事だ…。


『ガチャリ…。』


 僕は自分の部屋に入ると言うのに、ただならぬ緊張を持って部屋のドアを潜る。

 そして…僕のベッドで寝ているプリンを発見するのだった。


「プリン、起きろ…ここはおれの部屋だぞ。」


 僕はそう言ってプリンの体を軽く揺さぶりを優しく起こそうとする…。


「あぁん♪ダメ…ご主人様、こんな所じゃ他の人に見られちゃいますよ?

 あ…でも、ご主人様がどうしてもと言うのなら、プリンは…。」


『ゴスッ!』


 僕の空手チョップがプリンの頭を強打する。


「痛ッ!?あ、あれ?ここは…。

 あ…すいません、ご主人様!先ほどの続きですね?

 すぐに服を脱いで準備しますので…それとも、ご主人様が脱がせてくれますか?」


 どうやら、まだ寝惚けている様だ。

 なので、ここは無言で…。


『ゴスッ!』


「ちょ、ご主人様、本気で痛いです~。」

「プ・リ・ン・ちゃん…どんな夢を見ていたのか知らないけど、ちょ~っと現実に戻って来ようかな?」

「あ、あの…ちょっとご主人様の目が怖いかな~って思うんですけど…。」

「そりゃ…人が心配して急いで帰って来たってのに、当の本人は人のベッドで変な夢を見てたら叩き起こしたくなるって物だろ?

 まぁ、そんな事より…プリン、合体するぞ。」

「え?とうとう私達結ばれるんですね!」

「あの…もしかして、まだ寝惚けてる?」

「あれ?違うんですか?」

「〖融合〗…魔王化するぞ?」


 確かに、僕の言い方が間違っていた部分もある。

 『合体』なんて言うと、某釣り大好き人間の…と、聞こえなくもない。


「あ…そう言う事なんですね…てっきり、私は…ポッ♪」

「ポッ♪って、ならなくて良いから…そんな事より、早く融合するぞ!」

「やっと、ご主人様がその気になったかと思ったのに…残念です。」


 プリンはそう言うと、渋々、〖融合〗を使い僕と一つになる。

 その為、記憶に関しても共有する事となり、先ほどプリンが見ていた18禁の夢の内容が僕にも分かった。


「プリン…確かに、プリンとこんな関係になれたら…ってのは嬉しいんだけど…。

 流石に、まだ赤ちゃんが出来るのはちょっと不味いかな…って思うんだよね?」

〔うぅ…ご主人様に秘密を見られちゃいました…。

 あ!でも、種族が違いますから…いくら行為に及んでも、実際には赤ちゃんは出来ませんよ?〕

「え?そうなの?プリンが人化をマスターしてるから、てっきり人間と同様になってるかと…。」

〔確かに…もしかしたらって思いますが、おそらくは無理かと…元々、スライムは分裂して増殖する生物なので…。

 ですが、他者を取り込み、その情報を元に進化すると言う事は可能なので、擬似的に子供を作る可能だと思います。

 そう言う意味では、ご主人様の子供なら産んででみたいと…ポッ♪〕

「えっと…それは、僕がもっと大人になってから…ね?

 流石に、この歳で子供はちょっと…。」

〔はい、絶対ですよ?〕

「えっと…あ、そうそう…魔王化したから、プリンの傷も癒えてると思うんだけど…どうかな?」

〔あ…そう言う事ですね?確かに、ご主人様がドラゴンに心臓を破壊された時同様に、私の腕もちゃんと治ったと思われます。

 ただ、実際に融合を解除してみない事には、正直、ちゃんと治っているは言えないかと思いますが…。〕


 プリンはそう言うと『どうしますか?』と訪ねてくる。

 それに対し、僕はプリンに『もう少しこのままでいたい』と言ったのだった。


◆◇◆◇◆◇◆


「そう言えば…オークションで、例の斧を落札したヤツ…どっかで見た気がするんだけど、何処で見たんだろうな…。」


 僕は独り言のつもりで言ったのだが…僕と同じ記憶を共有するプリンが、僕の記憶の中から、その記憶を検索するのに成功した。


〔ご主人様、その人なんですが…認識阻害にんしきそがいの魔法を使っているのでは?と思います。

 それから…過去の記憶から、その様な者を検索した結果…似た様な人が一人発見出来ました。〕


「え…本気マジで?って、何か嫌な予感がするんだけど…。」

「はい…ご主人様も言う様に、嫌な存在と同じ系統の者だと思われます…。」

「つまり…どう言う事?」

「その落札した者が『ゼロの使い魔』と名乗る者だった可能性が高いと言う事です!」


 プリンが記憶から見付け出した答えは、予想以上にトラブルを引き起こす様だった…。

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