104ページ目…回想シーン【2】

「じぃじ、これ~。」


 ん?これは…夢?いや、思い出…なのか?


「おや、夢幻…またじぃじの部屋から本を持ってきたのかい?」

「うん、これ、よんで~。」


 そりゃそうだ…いくら何でも3歳の僕に本を読む事は出来ない。

 なにせ文字を知らないんだ…当然、誰かに読んで貰わないと…ね。


「どれどれ…今度は何を持ってきたのかな~?」


 じぃちゃんはそう言うと僕を膝の上に乗せて、僕から本を受け取る。

 そして、その本を見たじぃちゃんは、動きを止めた…。


「ま、まさか…バカな…この本は、あの時無くなったはずじゃ…。」


 無くなった?何の事だろう…それに、あの本、どっかで見たことがあるような…。


「じぃじ?」


 僕は今までに見た事のない、じぃちゃんの顔に驚きながら首を傾げた。


「あ、あぁ…本だったね…。」


 そう言うと、じぃちゃんは慌てて本のページを捲めくる。

 だけど、そこには何も書いていない…だけど、偶然、僕の手が本に触れた。


 次の瞬間、本が一瞬だけ光、直ぐに消えた。

 すると、再びじぃちゃんが慌てて本を調べる。

 何も書かれていなかった最初のページ…1ページ目に、何やら文字が顕あらわれている。

 それを見たじぃちゃんが、表拍子を念入りに調べる…。


「よかった…まだ指輪は無いようだ…。」

「じぃじ、ほん~」

「あ、あぁ…これはな『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と書いてある。」

「へぇ~。」


 僕は意味も分からずに、適当な返事をした。


「あらあら、夢幻ちゃんは本当に正義まさよしさんがお気に入りですね。

 ばぁばに甘えてくれなくて、ばぁばは寂しいですよ~。」


 あ、ばぁちゃんだ…相変わらず綺麗で若いな…もっとも、僕が3歳の時なんだから今よりも若いのは当然か。

 とは言え、近所の婆さんたちに比べたら、かなり綺麗…と言うより、可愛い…。

 もっともっと若ければ、お姫様と言われたら信じてしまいそうになる程だ。


「ははは…アリアさん、夢幻は私よりもアリアさんの方が大好きなんです、な~夢幻?」

「うん、ぼく、ばぁば、だ~いすき~♪」


 そりゃそうだ…じぃちゃんと違い、ばぁちゃんに抱き締められると、お日様の匂いとでも言うのかな?

 何故か良い匂いがして、幸せな気分になるのだ。


「あらあらあら、私も正義さんよりも夢幻ちゃんの方が大好きですよ~♪」

「わ~い、じぃじにかった~♪」

「えッ!?ちょっとアリアさん、私よりも夢幻の方が好きなんですかッ!?」


 ばぁちゃんの返事に慌てるじぃちゃん…ってか、孫ときそってどうするよ?


「はい…その代わり、あなたを愛してますから♪」


 その言葉で我を取り戻すじいちゃん…心なしか、頬が赤い気がする。


「なるほど…それなら、私もアリアさんを愛していますよ。」


 あぁ、そう言えば…ばぁちゃん、よくこうやってじぃちゃんを、からかっていたな…。

 なんとも懐かしい光景だ。


「正義さん、そろそろお昼の支度をしますので、ちゃんと夢幻ちゃんのお相手お願いしますね?」

「任せろ…夢幻、じぃじとお庭で遊ぼうか…とっておきの手品を見せてあげよう。」


 そう言うと、じぃちゃんは僕を庭へと誘い出す。

 もっとも…じぃちゃんは、直ぐに出てこず、ばぁちゃんと何やら話してから庭に出てきたのだが…。


「おまたせ!さてと…夢幻、約束通り手品を見せよう。

 あそこに、柿の木があるだろ?」


 そう言うと、じぃちゃんは庭にある大きな柿の木を指さす。


「ある~!」


 釣られて声を上げる僕…夢?とは言え、何やらちょっと恥ずかしい。

 

「よ~く見ててごらん、えいッ!」


 じぃちゃんの掛け声と共に、じぃちゃんの手から小さな水の塊が飛んで行き、柿の木に当たる。

 そして、水の塊は、霧へと変わった…すると、そこに太陽の光が当たり…小さな虹が出来る。


 あぁ…夏場、ホースで水道の水を撒く時に出来る現象だな…と改めて思う。

 が、当時の僕にはそんな事分かるはずもない訳で…。


「じぃじ、すご~い!」

「えっへん、すごいだろ~!」

「あらあら、正義さんったら…でも、もうあの時とは違うのですから、あまり無理しちゃダメですよ?」


 そう言って、ばぁばは笑っていた。


 そう言えば、何で僕はこんな事すら忘れていたのだろう…。


 目が覚めてしまえば、また忘れるであろう…そんな事を考えながら、僕は今暫くの間、この世界を楽しもうと心に決めたのだった…。

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