65ページ目…特殊任務の報酬

「よく来たな、待ってたぞ!」


 と、人の顔を見るなり言い放ったのは、ギルドマスターのラオンさんだ。


「いきなりですね…今朝、やっと退院したってのに…。」


 そう…病院で目が覚めた僕は、念の為と、アレから2日も入院させられたのだ。


 まぁ、目が覚めるまで2日間も寝てたらしいから、心配だったと言う事で無理矢理納得したが…目が覚めた僕の入院を指示したのが、目の前のラオンさんってのが、微妙に引っ掛かる…。


 話を戻そう…そんなこんなで、何事も無く無事に退院出来た訳だが、病院の受付でラオンさんからの伝言で、退院したらすぐにギルドに来る様に…と言われたら、流石に無視する訳にはいかない…。


 ってな訳でギルドに来たら受付の獣人の姉さんに、そのままギルドマスターの部屋に案内され、冒頭の台詞へと繋がってた訳である。


「まぁまぁ…それはそうと…今回の一件、良くやった。

 まずは、このお金を受け取ってくれ。」


『ガチャ!』


 音からすると、ずっしりと重い袋をラオンさんが渡して来る。


「コレは?」


 と、既に答えは聞いているのに、何ともマヌケな事を聞いてしまった。


「さっきも言ったが、金だよ。」


 ほら来た、いつものお約束だ。

 お金ってのは分かってる…問題なのは、何の金かって話だ。


「…言い直します、このお金は何のお金なんですか?」


 僕は少し怒りを込めて訪ねなおす…。


「そう怒るなって…ちょっとした冗談じゃねーか。

 コレは、お前達がダンジョンで倒した魔物達から回収出来た報酬だ。

 まぁ、回収時に、ちょっとちょろまかしたヤツもいたみたいだが…せいぜい小遣い位にしかならんだろうから、そこは笑って許してやってくれ。」


 まぁ、回収するだけでも、凄く大変だったはずだ…ならば、ギルドマスターであるラオンさんが容認するのであれば、手間賃代わりに少しくらいなら良いのではないだろうか?


「ご主人様、そんな奴等を許して良いのですか?

 私としては、見せしめに皆殺しにした方が良いと思うのですが…。」


 ちなみに、プリンは相変わらずゼリー状ではあるが、〖人化〗を使い、人型になっている。


「プリン、皆殺しとか物騒な事は言わないの!

 それに、少し減ったとは言え、こうして僕達の分が貰えるから良いじゃないか…ね?」


 と、僕が諭す様に言うと、プリンは、しぶしぶではある物の諦めてくれた。

 人の心を理解してくれたとは言え、まだまだ人の命を軽く見てしまう様で、困った物だ…。


「ま、まぁ…物騒な話は、そこまでにしてくれ。

 で…だ、ここからが本題となるんだが良いか?」


 と、ラオンさんが改めて僕達に聞いてくる…何の話だろう?

 そう思いつつ、僕達はコクリと1回肯いた。


「うむ…まずは、ギルドマスターとして、改めて礼を言う…此度の一件、本当に助かった。

 その事に付いて、ギルドから特殊依頼の報酬として、君達には金貨20枚が支払われる事となった。

 これが、その報酬だ。」


 ラオンさんはそう言うと、再び僕達の前に、袋を置いた。


『ガチャリ…。』


 金貨20枚…そこそこ重いであろう、その袋が僕達の前に置かれた。


 今回、レベルが上がった事により装備を整える事も必要だし消耗品の補充もしたい。

 そう考えると、お金は幾らあっても嬉しいから、ありがたい…。


「ありがとうございます、これで色々出来そうです。」


 僕はそう言うと素直に受け取る事にする。


「それから…もう一つ、報酬がある。

 まぁ、コレに関しては私がギルド本部にお願いして、特別に許可を頂いた事なんだが…。

 君達のギルドランクを無条件でBランクに上げる事となった。」


「はぁ~~~!?」


 僕はラオンさんの言葉に、大声を上げて驚いてしまた。


 そして、僕の後ろで…話を無言で聞いていたプリンとクズハは、何も言わない…と、言うよりも良く理解出来ていないのが正しいのかもしれない。


「ち、ちょっと待てッ!あんた、いったい何考えてるんですかッ!?

 僕達、まだギルドに入って5日目ですよ?

 それなのにランクBって、普通じゃまずあり得ない事でしょ!」


 物語の勇者なら、そう言う話はあっても可笑しくないが、自分で言うのもなんだが、僕は一般人だ。


「いや、本部に連絡したのは君達がギルドに登録した日だから5日ではなく、初日…まぁ、許可が出たのがそれから2日後だから…ギルドに入って3日目が正しいな。

 ちなみに、これほどの昇格は300年前に一人いた位だな。」

「なおさら質が悪いわッ!!


 って、そんな昔にも、無茶苦茶な人がいたんですね…。」


「あぁ…その人は、後に勇者と称えられた人でね…本名では無いが、皆からセイギと呼ばれていたらしい…君と同じ転移者だったらしい…。

 だからこそ、私は君が転移者と言う話を聞いて、期待しているのだよ。」

「なるほど…これで一つ謎が解けました。」


 はっきり言って異常でしかない僕と言う存在を受け入れた理由が…


「謎?いったい何の事だ?」

「いえ…何で、ラオンさんが僕達の事を秘密にしたり、色々面倒を見てくれるかですよ。」

「まぁ…確かに、下心があったのは否定しない。」

「いやいや、せめて、そこは否定しましょうよ…。」


 と、僕は苦笑しながら言う。


「否定しても構わないが、事実だから意味が無かろう?

 それに…私が気になったのは、君の顔だ。

 私は以前、勇者セイギの肖像画を見た事がある。

 君の顔が、セイギの顔に似ていると思ったんだ。」


 まぁ、似てると言うのならセイギって人も日本人だったのかもしれないな…。


「へ~…僕の顔に似てるんですか…。」

「うむ…私はかなり似ていると思っている。

 実は…勇者は魔王を倒した後、いつの間にか姿が見えなくなったらしく…魔王と戦った時の傷が元で死んだとも、元の世界に戻ったと言う噂もあってね。

 もし、元の世界に戻った話が本当だとするなら…同じく転移してきた君が、その勇者の血を引く者だと言われても、私は信じて疑わないかもしれない。」

「そうなんですね…。」


 それほどまでに似てると言われると、その肖像がとやらを一度見てみたくなるな…。

 僕は、プリンがいるから…。

 魔王化出来るから…そんな事を理由に、優遇して機嫌を取っていると考えていた事に、すこし恥ずかしくなった。


「まぁ、気に掛けてるの理由の半分はそんな所だ。」

「半分?では、残りの半分は?」

「怖いからに決まってるだろ…君はまだしも、後ろにいるプリンさんが…ね。」


 前言撤回…半分とは言え、プリン…人の彼女を怖いからとは何てヤツだ!


「ラオンさん、プリンは怖くありません…まだ人間の常識が覚えきれてないだけで…プリンは、すごく可愛いです!」

「ご主人様…ポッ。」

「あ、あの…ご主人様…私は?」

「あぁ、クズハも可愛いよ。」


 頬を赤く染めているプリンを余所よそにクズハが自分は?と聞いてきた。

 まぁ、どじっ子な事を考えなければ、クズハも十分、可愛いと思う。

 なので、素直に可愛いと答えてしまった。


「や、やった、私も可愛いって言われた♪」


 両手で小さくガッツポーズをするクズハを見て、僕は失敗したか?と小さく苦笑する。


「はいはい…そう言うイチャイチャは別の場所でやってくれ。」


 そんな事していたら、ラオンさんに軽くツッコミを入れられてしまったのだった…。

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