64ページ目…帰還

〔あなたッ!〕「ご主人様ッ!」


『ドンッ』


「グハッ!?」

 

 二人の声が聞こえたかと思うと、腹に衝撃を受けた。

 なんて事はない…僕の姿を確認し、治療を終えたクズハがプリンを纏ったまま僕の胸に飛び込んできたのだ。


「ご、ご主人様、ご無事ですか?お、お怪我はございませんか?」


 と、クズハが聞いてくる…またクズハのヤツ、僕をご主人様って呼んでるし…って、ちょっと待てッ!


「プリン…今の『あなた』ってのは何だ?」


 僕は他の人には聞こえないほどの小さい声でプリンに訪ねる。


〔え…えっ~と…つい?〕


 と、器用にテレたイメージ付きの念話で答えてくる。

 何度も言うが…プリンと結婚してないのだから『あなた』や『旦那様』とか呼ばれるには早すぎる。


 とは言え、二人の元気の姿を見ると、ホッと一安心する。


 かなり色々と無理をしたが、無事、決壊させる事なく押さえ込む事が出来たようだ…と安堵し、張り詰めていた気が抜ける。

 すると、いきなり目の前が真っ暗になり、クズハを押し倒す様に巻き込んで、僕はその場で倒れ込んでしまった。


『ドサッ!』


「ご、ご主人様!?だ、誰か来てッ!ご主人様が~ッ!!」


 クズハが慌てて他の人を呼ぶ…だけど、その時の僕は既に気を失っていて何も覚えていなかった。


◆◇◆◇◆◇◆


「う、う~ん…あれ?ここは…誰?私は…何処?」


 と、寝ぼけた頭で疑問を口に出す。


「それを言うなら、ココは何処?私は誰?…だろ。」

「ぎゃーーーーー!」

「失礼な!人の顔を見ていきなり叫ぶとは何事か!」


 と、目の前の人物に怒られてしまった。


「いやいやいや、普通、目が覚めて、いきなり目の前にライオンの顔があったら誰だって驚きますよ?」


 そう、僕の目の前にあった顔…。

 それすなわち、メルトの町のギルドマスターのラオン、その人だったのだ!


「って、なんでラオンさんがココに?」


 と、僕は疑問を口にする。

 そう…僕はさっきまでダンジョンにいたはずだ。


「なに、お前が倒れたと聞いて、慌てて病院に来たんだが…傷一つ無いとはどう言う事なんだ?」


 そう聞かれて、やっとの事で事態を把握する。

 そして…ダンジョン決壊未遂の犯人について聞いてみる。


「ラオンさん、『零の使い魔』…って知っていますか?」

「な、なぜその名前をッ!ま、まさかッ?!」


 やはり心当たりがあるのか、物凄く焦った顔をするラオンさん。

 まぁ、正直、ライオン顔で焦った顔を言っても、よく分からないのだが…。


「はい…今回のダンジョン決壊を企てた者が名乗っていました。」


 と、言うと詳しく説明しろと言われ、1時間ほど掛けて、あれこれ質問攻めされた。


「ふむ…かなり謎な部分が多いが、一応、話は分かった。

 しかし…あの力を使えば、もっと楽に片付いたのではないか?」


 と、ツッコミを入れてくる。

 だが、あの時はクズハの身体が心配で、プリンを側に付けていたので使う事は出来なかった。

 それに、理由はもう一つある…。


「先ほども言いましたが…僕達以外にも他の冒険者もいましたし…何より、僕自身、あんな力を制御出来るか心配なんですよ。

 もしも…僕が力を制御出来ずに暴走した場合、簡単に倒せる人なんていないですよね?」


 そう、分離したときの喪失感の他に、気持ちが高ぶり破壊衝動が少なからず増えるのだ。


「S級かA級の冒険者が数人集まればなんとかなるかもしれないが…少なくとも私には無理だな。

 いや、仮に倒せたとしても、やはり倒したくない…ってのが本音だ。」

「信用してくれてるんですね…。」


 と、僕が言うと…。


「いや、倒させる前に、『あの事』をバラされたくないだけだ。」


 と…ラオンさんは、明らかに冗談めいた口調でニヤニヤと笑う。

 まったく、素直じゃない…と思いつつ、僕も笑いが込み上げてきたので、一緒になって笑った。


 それから、少し時間が経ちラオンさんが席を立ち帰る時間が来た…そして…。


「そうそう…今回、お前達が倒した魔物のお金やアイテムも回収したから、特別報酬と一緒に渡すが…かなりの金額になりそうだ…楽しみに待ってな!」


 と、意味深な台詞を残して帰っていったのだった…。

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