第284話 宰相ジュール=ヴォルフガング

 レーヴェ神国宰相ジュール=ヴォルフガングはごく平凡な平民の家庭で生まれた。そんなジュールであるが初等、中等、高等の各教育機関を極めて優秀な成績を残し王城に勤めることになる。王城に勤めると一貫して文官畑を歩み、担当した様々な役職でその手腕を発揮、数多の功績を残し、現国王ハインリッヒが即位した時に宰相に任ぜられた。現国王よりも十五歳年上だが異例の出世と言えた。


「ティア殿。国というものは人々が集まって形成されております」


「ふむ。それは分かるが…」


「人々が集ると様々な社会集団が形成されます。すると必ずその集団に適合できない者というのが現れるのです。彼らは犯罪者ではありません。ただで上手く生きられない者達なのです。そういった者達を放置しますと違法であったり後ろ暗かったりする行為で金銭を得ようとし始めます。そうしてその規模が大きくなるとスラムや裏社会といった形で表の社会に影響を及ぼすことになります」


「我はそれほど人族と関わりがあった訳ではないがスラムといった一般の者が目を逸らしてくなるような部分が人族の街にあるのは知っている」


「彼等、社会に適合できない者達をなくすことは出来ません。またなくすことが正しいとも思いません。そのため我が国は裏ギルドを作り街ごとに支部を設けました。それらを国が管理することで最低限のルールを守る仕組みを作りました」


「最低限のルールとは?」


「違法薬物の使用販売の禁止、人身売買の禁止、無許可の娼館運営の禁止ですね。これら禁忌を犯したものは裏ギルド処分することを徹底し、娼館、カジノ、賭博場、祭事における出店などの運営に関しては国が関わるもの以外は裏ギルドを通さないと一切の商売ができないような仕組みを作りました。裏ギルドが彼らの身の安全を保障する代わりに裏ギルドの許可がなければそれらの商売は成り立たないという形をとっています。そして裏ギルドは彼らが犯す小さい犯罪には関与しません。それは各騎士団に任せる方針を取っています」


「宰相殿。それでうまくいくのか?」


 ティアからの問いにジュールは頷く。


「通常であれば国家が裏ギルドを運営するなど不可能でしょう。しかし我等にはミスティア様が率いる六番隊がいらっしゃいますからね。裏社会の動向をほぼ全て把握することができるのです」


 宰相のその言葉をミスティアが引き継ぐ。


「表の治安は騎士団が、裏の治安はわたしたち六番隊が守っているというところよね。騎士団では手が出せないような非合法スレスレで問題を起こす者達の抑止力として、またこの国の裏の顔として裏ギルドは存在しているのよ。それを管理するのが六番隊の主な任務になるわ」


「それは重要な任務なのだな」


「治安の維持は重要です。だが全てが統一された社会にする気は我々にはありません。初代国王様がマルコ様と共に目指された全ての種族が明るく笑える自由な国を我々は日々目指しております」


 宰相のその言葉にマルコが賛同する。


「貴方たちはとても頑張っているわ!この国はとても良い国になったと思うもの!」


「姉上、我もこの国に来てまだ数日ですが、この国がよき国だと感じています」


 ティアの言葉にマルコがとびっきりの笑顔になる。筋骨隆々の髭面で迫力が凄い。


「嬉しいことを言ってくれるわね!ティアちゃん!来週の聖冬祭に期待して!プレスちゃんもね!」


 そんな答えと共に振り向かれてウインクを飛ばされプレスは冷や汗を流しながらも引き攣った笑顔で、


「も、もちろんだよ、マルコ!」


 そう応えるのであった。

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