第222話 侵入者あり
頭部と思われる部分から真っ二つに斬り分けられた黒い魔物が塵となる。
「マルコ!助かったよ」
プレスは長剣を納めつつ褐色の巨漢に向き直った。
「プレスちゃんにとってなんでもない相手だってことは分かっていたけど久しぶりに戦っている姿を見たら参加しちゃったわ!」
そう笑う放浪神マルコ。
「冒険者ギルドから?」
「ええ。情報交換のために行ってみたら大騒ぎになっていたわ。騎士達に怪我をした冒険者の手当てを指示していたら戦いの気配を感じて来てみたの。逃した方の魔物は大丈夫なの?」
「ああ。ティアが追っているよ。相手に悟られる可能性があるから念話は使えないけどティアなら大丈夫さ」
「じゃあ、問題ないわね!」
そんな会話を交わしていたプレスはふと足元に視線を落とした。そして何かを拾い上げる。
「プレスちゃん?」
「マルコ…、こんなのを見たことは?」
そう言ってプレスが見せたのは魔石だった。この世界の魔物は魔石と呼ばれる魔力の結晶を体内に持っている。大体は魔力の輝きと同じ赤紫色をしていることが多いのだが、プレスが持っている魔石は漆黒。完全な黒で彩られていた。
「初めてみる魔石ね…。嫌なものを感じるし気持ち悪いわ…」
そんな黒い魔石が何もしていないプレスの手の中で粉々になり塵となる。
「マルコ、頼みがある。ギルドに戻って暴れた魔物は追っていた冒険者が取り逃がしたけどその仲間と思われる二体は斃したことを話してほしい」
「魔物の危険性と共にって感じかしら?」
「ああ。騎士団と冒険者ギルドの共同声明として危険性を街に伝えてくれ」
「追っていた冒険者役のプレスちゃんのことは何て言えばいいかしら?グエインとかって冒険者が探していたわよ?何をしたの?」
「魔物だったけど妻の姿をしていたやつを息子の前で斬りつけたんだよね…。言いたいことがあるだろうな…。それは置いておくとして、敵らしい存在がいることが分かったけど、どこにアイツらの目があるか分からないからね。今はあれ以上の注目を浴びたくない。おれのことはスワン司教が直契で雇った冒険者ってことにしておいてくれ。敵じゃないが街の冒険者とは別行動をとっているって感じかな?」
「分かったわ!プレスちゃんはこの後どうするの?」
「今日はもう何も起こらないと思うから孤児院に戻ってティアの帰りを待つよ。面倒を押し付けるようですまないけど、この街の騎士団への指示と冒険者ギルドへの対応をマルコにお願いするよ」
「何を言ってるの!
そうしてマルコは冒険者ギルドに戻るため虚空に消え、プレスは人目を避けながら街に溶け込むかのように孤児院を目指す。
既に太陽は西へと沈み夜の帳がダリアスヒルの街へと降りる。プレスは孤児院の門前に到着した。ティアの気配は感じられない。
相変わらず結界が張られている。プレスはそれに弾かれることなく敷地内に足を踏み入れることができた。どうやら魔物や悪意をもつ者のみに反応するらしい。
『さすが司教様…、結界を張り直したみたいだね。かなりの結界になっているからこれを突破できるやつなんて…』
そう思った瞬間、プレスの索敵能力がこの結界を破って侵入する存在を感知させた。
「初日からいろいろなことが起こる…」
呟きと共にプレスは孤児院への侵入者を確認するため神速での移動を開始するのであった。
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