第194話 ジルハイドとの戦い

「何が聖印騎士団だ…、あの娘は…、キャロラインは私のものだ…、私が…、私こそが…、私の…、私の…、私の…、私の…」


 ぶるぶると震えながら譫言うわごとのように呟き続けるジルハイド。


「ジルハイド様、お気を確かに!」


 プレス、ティア、ジルハイドを除いて唯一人意識を保っていたゴルリアがそんな主に声を掛けるがその声がジルハイドに届いているかは分からない。


「裁きの場にて申し開きができるように…、この場は一旦…」


「黙れ!!」


 激昂したジルハイドの怒声と共に騎士ゴルリアの上半身が主によって至近距離から放たれた火矢フレイムアローによって爆散した。夥しい返り血を浴びながらジルハイドはプレスを睨みつける。その瞬間、ジルハイドとの間合いを神速で詰めたプレスが無言で長剣を振りおろした。長剣が正確にジルハイドの右の肩口へと打ち込まれる。


 ガキン!!


「え?」

「主殿!!」


 ズズン!!


「!」


 何か特別な防具の効果か、響き渡る金属音と共に長剣が弾かれ、ティアの言葉と同時に巻き起こった魔法攻撃による爆発でプレスは吹き飛ばされた。さらにプレス目掛けて複数の雷撃が放たれる。もちろんこんな攻撃を受けるプレスではない。雷撃を躱しながらジルハイドの様子を冷静に確認する。


「無詠唱…、それとも魔道具か…。往生際が悪い…。火矢フレイムアロー!」


 プレスの言葉と共に青白く輝く五本の火矢がジルハイドに向かって放たれる。しかし放たれた火矢フレイムアローはジルハイドへと到達する前に結界により弾かれる。


「あの火矢フレイムアローを弾く結界…?幼女趣味の変態領主と思っていたが、どうやらそれだけではないようだ…」


 プレスの青白く輝く火矢フレイムアローの威力は常人のに比べて極めて高い。魔法の心得があるからと言って簡単に結界で止められるものではなかった。そんな結界を簡単に展開してみせるゴルリアは人族としては相当な魔法の実力を持っていると言えた。あくまで人族の範疇ではあるが…。


 そんな部下であるゴルリアの返り血で真っ赤に染まったジルハイドの顔が憤怒の感情で塗り固められる。


「聖印騎士団のゴミが…。邪魔をするな…。キャロラインは…、…………、キャロラインは…、キャロラインは…、キャロラインはわたしのものだあああああああああ!!!!!」


 ジルハイドが絶叫する。嫌な予感が過ったプレスは地面へと下ろしてあった木箱を掻っ攫うとジルハイドへと向き直った。


「…?」


 飛び込んできた光景に怪訝な表情を浮かべるプレス。ジルハイドが首下から何かを取り出す。それは燻んだ銀色のペンダント…。目にした途端、プレスは表情を変える。ニヤリと表情を歪めたジルハイドはペンダントトップを握り締め、魔力を注いだ。


「我が命を我らが信じる光の女神ヴィルナヴィーレと聖女様に捧げる!!」


「バカな!!だと!?何故そんなものを?止めろ!!人としての形を失う!!」


 ドプンッ!!


 響き渡る不快な音と共にジルハイドの顔や体が溶け落ち始めた。悪臭を放ちながらグズグズの汚泥のような液状に変化を遂げる。殆ど溶けきった泥のような塊の表面に血管だけがドクドクと脈を打つのは非常に醜悪であった。


「ふはははは!」


 最早どこに口があるのかも分からない状態ながら下品な笑い声が聞こえてくる。


「何が聖印騎士団だ!貴様がいくら強くてもこの神の御業の前では無力!潔く神の前へと跪け!!そしてキャロラインを渡すがよい!!!」


 この世のものではない変容を遂げたジルハイドをプレスは静かに見つめる。その瞳は悲しみと哀れみ…、そして怒りがあった。


「神の御業?その銀鎖は命を触媒に持ち主を魔獣に近い存在へと変化させるただの魔道具だ…。そしてその変化は不可逆…二度と人には戻れない…」


 プレスは懐から紙を取り出す。そして右手の人差し指と中指の腹を噛み、流れる血で魔法陣を描く。完成した魔法陣を箱の側面に押し当てた。


「キャロラインは渡さない!お前はおれの親友の家族を傷つけた…。それをおれは絶対に許さない!お前はおれに滅ぼされる!天地疾走オーバードライブ解呪アンロック!」

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