第195話 脱出方法

天地疾走オーバードライブ解呪アンロック!」


 プレスがそう唱え木箱の上方が開き金色に光り輝く長剣が飛び出す。柄を握ると本来は夜のような漆黒を湛えるプレスの瞳が金色に輝いた。


「グググググ…」


 ジルハイドであった筈である異形の物体が唸り声を上げる。その瞬間、異形の一部分が弾け飛んだ。濁った水滴のようなものが周囲に撒き散らされ周囲に異臭が立ち込めた。プレスやティアだけでなく意識を失った冒険者や騎士達にその物体が降りかかる。


「主殿!」

「これはマズい…、ティア!」

「心得た!」


 ティアの声に応え飛び差したプレスは神速で剣を振るい次々と剣戟を飛ばす。金色の剣戟は撒き散らされた物体を正確に捉えて消滅させる。空高く舞い上がった物体はティアが弱めのブレスで消し飛ばした。冒険者や騎士達に被害はなかったようだが、撒き散らされた物体が触れた木々はどす黒く染まりドロドロに溶け落ちる。


「ティア!周囲に結界を!この人数を庇うのは無理がある…」

「うむ!」


 ティアを中心にプレスとジルハイドであった異形の怪物を囲んで光の壁が現れた。それと同時に間合いを詰めたプレスが異形の躰を切り裂こうと踏み込むが、


「!」


 瞬時に形を変えた怪物が膜状となってプレスを包み込もうとする。


「せい!」


 信じられない程の剣速で気合の声と共に膜状の怪物を細切れにするプレス。


「?」


 しかしその手応えに納得がいかない表情が浮かぶ。その時だった。


「え?」


 ドプンッ!!


 次の瞬間、プレスの全身が地面へと沈み、そして消えた。


「主殿?」


「ゲゲゲゲゲゲゲゲ…」


 既に人としての理性を失っているのか下品な笑い声が聞こえてくる。


「貴様!主殿に何をした!?」


 ティアが異形を睨みつけながら火矢フレイムアローを放つ。


「ゲゲゲ…、コロシタ、コロシタ、オロカナヤツ…」


 ティアを嘲笑うかのように火矢フレイムアローを問題にせず体の一部分を撒き散らしてティアに攻撃を加えるジルハイドであった怪物。


『くっ…。主殿が囚われたとすると安易に消し飛ばす訳にもいかぬ…』


 飛ばされてくる物体を結界で防ぎながらティアは困惑の表情を浮かべる。あの怪物をブレス一発で消し飛ばすことなど訳はない。しかし、あの異形の内部にプレスがいる場合、下手な攻撃がプレスへどのように影響するかが分からなかった。


 膠着状態が続くその最中…、


『ティア…、ティア…、聞こえるかい?』


 異形の攻撃を防ぎ続けるティアの頭にいつもの馴れ親しんだ声が響く。プレスとその眷属であるティアは念話で会話をすることが出来る。先程まで必死に呼びかけていたティアは返答があったことに安堵を覚えながらも問いかける。


『主殿!?無事なのか?一体何があった!?』


『ごめん。心配させた。とりあえず無事だよ。どうやら異空間…、というかダンジョンのようなところにいてね…。魔力を外へ飛ばすのにちょっと手間取って念話に時間が掛かったよ。ティアはあいつに近づかないでくれ!きっと取り込まれる!』


『異空間…?ダンジョン…?主殿の力を持っても破ることはできないのか?』


『………』


『主殿…?』


『こいつはおれが引導を渡す…。ティア!頼みがある…。やったことってあったかな…』


「?」


 プレスの念話に首を傾げるティア。


『この剣で…、神々を滅する者ロード・オブ・ラグナロクの力で…、掛け値なしに全力で斬ってみる…』


『あ、主殿…?そ、それは…』


 あっという間に大量の冷や汗を流すティア。


『外にどんな影響があるか分からないからね。周囲の騎士と冒険者を起こして逃がし、怪物の周囲を強力な結界で覆ってくれ!』


 プレスが本気であることを確信したティアはその美しい顔を引き攣らせながらもプレスの指示に従うのだった。

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