第184話 白狼の咢で待ち受けるもの
ギャン!
飛びかかってきた魔狼がプレスに斬り捨てられてそんな鳴き声をあげ地面へと落ちる。
ここは中規模と推定されるダンジョン『白狼の
「小規模ダンジョンでミケは床をぶち抜いたらしいけど、流石にそれは…」
「出来なくはないが他の冒険者を全滅させるわけにもいかぬからな…」
「だよねー」
そんな話をしつつ歩みを進めると下層への階段と大きな立て看板が現れる。
『これより先、第二十一階層!進む方は自己責任で!!』
そんな言葉がけばけばしい文字で書かれていた。
「ここから先がそうか…。ティア!念のため周囲の警戒は怠らないでくれ」
「承った!」
そうして二人は第二十一階層に足を踏み入れた。
「…空気が変わった?」
怪訝な顔で呟くプレス。その時、魔物の気配がかなりの速度で接近する。
「主殿!」
「分かってる…、おっと!」
プレスが驚く。高速で移動するその魔物はプレスの長剣を見事に躱し、喉元へ食いつこうとした。その牙を落ち着いて躱し背中に一撃を入れる。
見れば普通の魔狼のようだが第二十階層に出てきた魔狼とは段違いの素早さだった。
「主殿!」
「大丈夫!だけど結構な素早さだ。ちょっと驚いたよ…。いきなりこんなのに襲われたら慣れてない冒険者は…」
「この階層で大多数が全滅した可能性が高いか…」
とは言ってもプレスやティアにとっては大した相手ではない。二人は移動を開始する。
「主殿…。ボスかダンジョンコアを探すと言っていたが、そこにキャロル殿の障壁に関する手がかりがあると?」
「ああ、ボスが意思の疎通ができるやつだと楽なんだけどね。もしダメならダンジョンコアにこの剣を突き立てて魔力で強制的に情報を読み取ろうと思ってる」
そう言って背中の木箱を軽く叩く。
「そ、それは…、主殿なら上手くやると思うが、もしコアを破壊すると…」
「このダンジョンから魔物と宝箱がなくなっておれ達は逃げるようにこの街を後にする…。夜逃げ同然にね」
プレスはニヤッと笑うと飛びかかってくる二頭の魔狼を先程とは全く異なる鋭い太刀筋で切り捨てると歩みを進めるのだった。
「………はぁ…。やっとここまで来た…。これが第五十階層への階段か…」
うんざりしたようにプレスが言う。
「なかなかに面倒なダンジョンであったな…」
そう言いながら五匹同時に飛びかかってきた魔狼を回し蹴りで全て蹴散らすティア。その蹴りを受けた魔狼の首は尽くあらぬ方向を向いている。そんなティアの顔もどことなく疲れが感じられた。
二人は精神的な疲労を感じていた。魔狼の数が多すぎる。この第四十九階層までに万に近い数の魔狼を狩るとは思わなかった。
「ここに関してはミケのやり方が正しかったかもしれないね…、次に同じようなことに遭遇したら試してみよう。それにしても次が最下層だといいんだけどな」
そう呟いてプレスはティアと共に第五十階層へと階段を下りた。下りた先は非常に広大なホールとなっており丘のようなものまである。
アオーーーーーーーーーーーン!!!
途端に強力な魔力を含んだ遠吠えが聞こえてきた。遠吠えの聞こえてきた方向に視線を送ると遠くの丘の上に巨大な白い魔狼の姿がある。それがゆっくりと近づいてきた。
「ティア…。あの魔力ってさあ…」
プレスはその白い魔狼の正体に思い至った。だが間違っていることを祈りティアに声をかける。
「さすがは主殿!本当に主殿といると退屈しない!あれは数が少ないから我も久しぶりに見る姿だ!」
美しい瞳を輝かせるようにティアがそう答える。
「ティアがそう言うってことは…」
「うむ!フェンリルだ!」
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