第183話 ギルドでの情報収集

 秋の太陽はまだ高い位置にある。昼食時ではあるのだがプレスはティアと共にロヨラ邸を後にして宿へと戻る。


「まずこれを読んでしまおう…」


 そう言って自室にティアを呼びブライから託された封筒を開け中の便箋に目を通した。


「ふー…」

「主殿…?」


 やれやれといった様子でプレスが便箋をティアに渡す。


「…これは…?竜の我から見てもこれを人族でするのは非常識というものではないのか?」


「ま、昔の貴族家とかではないこともなかったけど、今のロヨラ家は厳密には貴族ではないからね…。ね、ティア…。荒唐無稽とかって言われるかもしれないけど…。四年前に起きた諸々が無関係…、おれはそうは思わないんだよね…」


「主殿…。我からも伝えることがある。キャロル殿に纏わりついている結界のようなものだが…、魔道具のような反応は無かったから間違いなく意思を持った魔力的な何かが関与している。だがあれに攻撃的な意識は感じられなかった。どちらかというと何かを遠ざけるために存在しているようだった…」


「遠ざける…。…誰かがキャロルを護ろうと…?」


 プレスは考え込む。まだ情報が不足している。


「ティア!昼飯を食べに行こう。その後、ギルドに行きたいから付き合ってくれ!」


「それは構わぬが、ギルドで何をするのだ?」


「四年前から今日までで街に起こった異変の情報を集めようと思う。ロヨラ邸ではそれ系の情報は聞けなかった…。だけどギルドには別の情報があるかもしれない」


 宿の一階に併設されている食堂で簡単な食事を済ませたプレスとティアはギルドを目指す。


「ティア…。すまない。美味いものを食べよう言っていたのに依頼を優先させてしまって…」


「何を言う主殿!友人の家族を助けることは美味い物より重要だ。それにそんな主殿に助力できることが我には嬉しいのだ。だから気にすることなどないぞ!しかし…、もし主殿が気にするならばこの依頼を達成した後に美味い物を食べようではないか!」


 思わずプレスはティアの頭に手を乗せ撫でる。


「ふにゃ!?」

「ありがとう…」

「ふふふ…。もっとやってもいいのだぞ…」


 絶世の美人がにこにこと気持ちよさそうにしている。周囲の男達から刺すような視線が飛んでくるがプレスは気にしない。目を奪われた恋人の横っ面をひっぱたく鬼の形相と化した女性などを気に留めることもなくさらにティアの頭を撫でる。


「ふふふ…。今晩辺りは子竜の姿でいっしょに…」

「ま、それくらいはね…」

「ふふふ…、ミケ殿から聞いたからな…。寝てしまえば人の姿で…」

「…?…、何か言った?」

「いやいや…」


 じゃれ合いながらも足を止めなかった二人は道すがら恨みの塊を生じさせつつもギルドに到着した。


「四年前から今まででこの街に発生した異変…、ですか…」


 プレスに問われた受付嬢が考え込む。


「キャロライン嬢の呪いは四年にわたって誰にも解呪できなかったんだろう?そんな呪いなら周囲にも何か異変があっても不思議じゃないと思ったんだ」


「そう言われましても…。私も赴任して二年ですが…。うーん。異変といっても…。明日までお待ち頂ければ他の職員にも聞くことが出来ますが…」


「そうだ!異変という言い方が悪かった。呪いのことは忘れてくれ!この四年間で街に起こった変化が知りたい。どんな些細な事でもいいんだ!先ずは広く情報収集をしたい!」


 そう言われて再度考え込む受付嬢。しかし思い当たることがあったのか唐突に声を上げた。


「あ!」


「何かあった?」


 プレスの反応に受付嬢は頭を下げる。


「申し訳ありませんでした。あまりにもあたり前のことですぐには思い至らなかったのです。変化ですが、大きく一つあります。ダンジョン『白狼のあぎと』の発生です」


「ダンジョン?自然発生ってことかな?」


「はい。そう解釈されています。三年前、この街の東に狼型の魔物が出る洞窟型のダンジョンが発生しました」


「狼型?それって珍しいんじゃ…」


「ええ。過去に狼型の魔物が発生したダンジョンは記録にありません。この街が白狼の街だからという話もありましたが、何故このようなダンジョンが発生したかについての原因は未だ不明です。ただロヨラ家の呪いが狼の呪いと言われ、その後に狼型の魔物が出るダンジョンが発生したことは、この街が狼との決別を選んだことの遠因ではありますね。ちなみにこのギルドが設置されたこともあのダンジョンが発生したことが大きく係わっていると聞いたことがあります」


「ダンジョンの構造は?」


「中規模のダンジョンと推定されていますが、踏破はまだされておりません。当ギルドでは第二十階層以下への探索は推奨していないのが現状です」


「理由を聞いても…?」


「第二十層までは安全に探索や狩りができることはこの三年の間に証明されてきました。しかし第二十層以下へ潜った冒険者の帰還率がゼロなのです。強力な魔物がいるとも噂されますが真実は分かりません。当ギルドはこれを重く見て第二十層以下を非推奨にしました。本来はS級冒険者に探索依頼を出す案件なのですが、小国家群に来てくれるS級冒険者は殆ど皆無であり探索は滞っている状態です。ただ第二十層までで獲れる狼型の魔物の毛皮は防具や日用品の材料としての需要が大きいので高値で取引されるためD級、C級、B級の冒険者には人気がありますけどね」


 S級冒険者は高額の依頼料で依頼を受ける。小国家群にはそれほどの依頼料を出せる貴族や商人はまだ多くはない。


「ありがとう…。参考になったよ…」


 そう言ってプレスはティアを伴って踵を返す。


「主殿…。狼の魔物が発生するダンジョンとは、まさに…」


「ああ。ティア。無関係なわけがあるか…。どこかの商会で食料を揃えよう…。明日はダンジョン探索だ!」

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