第179話 少女の願い

 この世界において生きている存在は例外なく魔力を備えている。これは人族や亜人、魔物や魔族と呼ばれる存在だけでなく、動植物も魔力を持っていることを示していた。


「魔力を持つ存在を拒絶する呪いか…」


 プレスは何か納得していない様子だ。


「主殿?我も確かめてみたいのだが…?」


「ティア、お願いするよ。キャロル?このお姉さんもおれと同じようにするから動かないでくれるかな?このお姉さんもおれと同じくらい強いか心配しないでね?」


「はい…」


 プレスの頼みにキャロルは椅子に座ったまま頷く。


「キャロル殿、失礼する」


 そう言ってティアも先ほどのプレスと同じように手を伸ばす。


 バチバチ!バ、バ、バババババババ!!


 その衝撃音にキャロルは目を瞑って耳を塞ぐ。

 ティアは衝撃に手を弾かれることなく距離を詰めようとした。すると魔力のような力が凝縮しキャロルを包み込むような障壁を形作る。ティアはそれを確認してからキャロルとの距離をとった。

 ゆっくりとキャロルが耳から手を離す。


「キャロル殿、怖がらせて申し訳なかった。協力に感謝する」


 ぺこりと頭を下げてそう言ったティアは後ろに下がりながらプレスに念話で伝える。


『主殿…。後で話がある…』


 そんなティアに視線で同意を示しプレスはキャロルに向き直る。


「キャロル…、状況が少し分かってきたよ。いくつか質問してもいいかな?」


「はい!勿論です!」


 プレスが聞けたのは四年前からこの状態になったこと…、これは依頼内容と同じであった。そしてうっかり使用人達を傷つけてしまわないようにキャロルが望んでこの離れで可能な限り暮らしていること、そして…。


「母上?エーデルハイドさんは君に触れることができる?」


「はい」


「それは…、後で確認するね。…ふむ、今日のところはこれくらいかな?キャロル、本当はもっと話したいけど、それは全てが終わってからにしよう。必ずなんとかするからもう少し待っててね」


「お待ちください!」


 部屋から出て行こうとするプレスにそう言われたキャロルはプレスを引き留める。


「レイノルズ様…。実は私からもお頼みしたいことがあるのです…。このようなことをお頼みできる立場にないことは重々承知しているのですが私は外に出ることが叶わない身…。あの…、実は…」


 伏し目がちにそう言うキャロルに笑みを浮かべてプレスが答える。


「そんな遠慮をするなんてすっかり淑女レディだね…。でも気にしないでくれ。おれにできることなら何でもするぞ?」


「ありがとうございます。実は…、シロちゃんを探して欲しいのです」


 縋るような目に涙を浮かべてキャロルは言う。


「シロちゃん?…ああ!ファングのことか?そう言えば姿を見せていないな…」


「四年前、私がこんな状態になってしまった時に居なくなってしまったんです。お願いします。私…、どうしてもシロちゃんに会いたくて…、ちゃんと面倒をみるとお父様とも約束したのに…」


 そう言って両の手で顔を覆う。


「四年前…」


 プレスが口の中で呟く。何か思うところがあるらしい。


「主殿、シロちゃんとは?」


「この家で飼っている白い子供の魔狼だよ。正式な名前はファングなんだけどね。キャロルはシロちゃんと呼んで可愛がっていた…」


 プレスは障壁の影響を受けるギリギリの所まで近づき膝をついてキャロルと目線の高さを合わせる。


「キャロル!安心してくれ!このプレストン=レイノルズが君に誓おう!君の解呪とファングの捜索に全力を尽くすと!」


「レ、レイノルズ様…」


 震える声と驚いた表情と共にキャロルがプレスの目を見る。プレスは笑顔を浮かべて頷いた。


「さてと…。次はエーデルハイドさんもから話を聞いてくるね…。キャロル…、もう少しの辛抱だから頑張るんだよ?」


 そう言うとプレスはエーデルハイドから話を聞くため離れの外に向かうのだった。

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