第178話 ロヨラ家での再会

 ここはロヨラ家の屋敷に用意された応接室。扉が開かれると同時に中で待っていたプレスとティアは立ち上がる。


「レイノルズ様…。お久しぶりです。このようなむさ苦しい姿でお出迎えする非礼をお許しください」


 そう言って洗練された仕草でカーテシーを行う淑女。かつて美しく艶めいていた黒髪にはほんの少し白いものが混じり、瑞々しかった表情には幾分の疲れが見てとれた。しかしそうは言っても同年代の他の女性とは比較にならないほどの美貌を湛える女性。ロヨラ家現当主であるエーデルハイド=ロヨラがプレスとティアを出迎えた。


「エーデルハイドさんも久しぶり。突然訪問したのはおれ達だから気にしないで。最初におれの相棒を紹介するね。ティア…。こちらはエーデルハイドさん。この家の現当主でおれの旧友の奥さんだ」


 そう言われたティアは胸に右手を当てて敬意を示す。


「我はティア。主殿と共に依頼達成に尽力させて頂く」


 そうして挨拶を済ませた三名はソファに腰を下ろす。ドアの側には執事のブライが静かに立っている。


「このような形で再びお会いすることができ…、そして冒険者として依頼を受けて頂けるとは…」


 エーデルハイドが頭を下げる。


「積もる話は後にしよう。キャロルに掛かっているという呪いを最優先したい。その方がいいだろう?」


「レイノルズ様はお変わりになりませんね…。お気遣いに感謝します。実際に見て頂いた方が早いと思いますので娘の所へお連れします。ただ…」


 プレスはエーデルハイドの言葉を遮る。


「呪いの解呪に先入観はよくない。それ以上はキャロルに会った後でこちらから聞くことにするよ。大丈夫!おれの実力ことは知っているだろう?危険なことにはならないさ…」


「…畏まりました」


 そう答えたエーデルハイドはプレスとティアを屋敷の中庭へと案内する。広大な中庭に造られた一階建ての優雅な白い石造りの建物を離れとして使用していたことをプレスは思い出す。どうやら娘のキャロルことキャロラインは離れで暮らしているらしい。洒落た造りのエントランスに到着する。


「こちらでございます。キャロル。お客様をお連れしました。あなたもご存知の方がお見舞いにみえられました。いつもの椅子に座ってお待ちなさい」


「はい。お母さま!」


 元気な鈴を鳴らすような声とパタパタと走る音が中から聞こえた。その声がプレスが覚えていたものよりもずっと大人びているようだった。


 エーデルハイドに目で確認しプレスがドアを開け中に入る。それにティアが続いた。


「やあ、キャロル!久しぶり。元気だったかい?」


 入ってすぐに陽気な声をかけるプレス。


「そこお声は…、もしかしてレイノルズ様でしょうか?」


 綺麗な声が耳に心地よい。あの頃に比べると大人びているが懐かしい声にプレスから笑みが溢れる。


「ああ。レイノルズだよ」


「お久しぶりです。本当に懐かしく思います。レイノルズ様にお会いできるなんて…、本当に…、夢じゃないんですね…。私はこちらにいるので大丈夫ですからお入りになってください」


 その言葉に従い居間として使用されているだろう部屋へと移動する。


 そこには部屋の中央に置かれた椅子に可愛らしく座る一人の少女が…、母譲りの美貌と美しい黒髪、父譲りの知性と聡明さを湛えた青い瞳を持った少女…、キャロライン=ロヨラがそこにいた。確か今年で十三歳になるはずだ。


「やあ。キャロル…。大きくなったね。早速で悪いけど呪いとかいうやつを解除しにきたよ。積もる話ってやつはその後にね…」


「そ、それでわざわざ…、畏れ多いです…。あ、お待ちください!」


 近づこうとするプレスをキャロルが止める。


「どうしたの?」


「あ、あの…、母から何も聞いていないのですか?」


「ああ。先入観は禁物でね…」


「多分…、呪いのせいでレイノルズ様は私に触れることができないと思います…」


 俯くようにしてキャロルが答える。


「触れられない?試しても…?」


「危ないです!」


「大丈夫…」


 和かな笑みを浮かべてプレスはゆっくりとキャロルの方へ右手を伸ばす。その時、


 バチッ!!


 何らかの力が働きプレスの右手を信じられないほどの衝撃と共に弾き飛ばそうとした。


 結構な衝撃にプレスも驚く。恐ろしいほどの力で弾かれた。プレスだから問題ないが普通の人族であればこれだけで怪我をするだろう。手を骨折するかもしれない。


「お怪我は!?お怪我はありませんか!?」


「キャロル。大丈夫!ほら?大丈夫だからね?」


「ああ…、レイノルズ様…、よかったです…」


 握ったり開いたりする右手を示し慌てるキャロルを宥め安心させてから再度手を近づけると先ほどと同様に何かの力がプレスの手を弾いた。


「凄い力だね…。キャロル…。これが呪いの…?」


「はい。どうやら魔力があるものは私に触れることが出来ないようなのです」


「そういうことか…」


 プレスは目の当たりにした不可解な現象について考えを巡らせるのだった。

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