第176話 ロヨラ家の依頼

「なんか…、街が大きくなった気がするし、雰囲気も変わった…?」


 検問などもなくすんなりとホワイトランドの街に到着したプレスとティアであったがプレスがそんなことを呟いている。しかしティアの目にはこれまで見てきた街との差が分からなかった。

 様々な建物が調和を持って並び立ち、道はゴミも落ちてない。往来する人々の顔には笑顔があった。通りに目をやると商店が集まって市場のようになっているのかあちらこちらに人だかりも出来ている。その光景は活気のある平和な街を印象付けるものだ。


「主殿?いたって普通の街のような気がするが…?」


 そう言われるプレスも何に違和感を覚えるのか分からないようで困惑しているらしい。


「主殿。とりあえず今晩の宿を探さないか?」


「そうだね。ここで頭を捻っていても始まらない。この街は以前来たことがあるけど宿に泊まったことはないんだ。いい宿が見つかるといいんだけどね…」


 そうして二人は歩き始める。


「あっ!」


 暫く歩いてみてプレスが声を上げる。


「どうした?主殿?」


 そう言ってティアが見るとプレスと目が合う。


「狼だ!狼がいない!」


「狼?」


「ああ。前に来たときはそんなに数は多くないんだけどあちこちに白狼を祀ったようなオブジェがあったんだよね…。それが無くなっている…。なんでだろう?この街の守り神のような存在だった筈なのに…」


「気になるのであれば誰かに聞いてみるしかないな…」


「そうだけど…、どうしようかな…」


 そう答えたプレスが周囲を見渡す…、すると遠くに剣と薬草をあしらった紋章を掲げた大きな建物が見えた。


「冒険者ギルドだ!小国家群の街にもあるなんて…。ティア!ギルドに行こう!あそこなら情報収集も出来るし、今夜の宿も紹介してもらえるはずだ!」


「うむ。我に異存などないぞ!」


 そうして二人はギルドに入ったのだが、受付嬢から聞かされた事実にプレスは驚きを隠せなかった。


「白狼との決別を宣言した?このホワイトランドが?」


「ええ。四年前に今の領主様から宣言が出されました」


 信じられないといった表情のプレスに笑顔で答える受付嬢。


「ちょっと待って!今の領主ってロヨラ家だよね?あの戦争の後もこの街の統治はロヨラ家が引き続き行うことで丸く収まったと聞いていたんだけど…?」


「いいえ。あの戦争の一年後ロヨラ家を引き継がれたエーデルハイド様は統治権を現在の領主様であるジルハイム=ストア様にお譲りになられました。現在はスライン伯ストア家がこの街を治めているということになります」


 プレスの問いにそう受付嬢は答える。


「スライン伯ということはかつて伯爵家だったのか…?ストア家なんてエルデニア王国にあった?」


「私は存じ上げませんでした。噂によるとロヨラ家の遠縁にあたるとか…。ただ出自はともかくストア家による改革で人が集まったのです。職人や商人が呼び寄せられこの街はこのように大きく発展しました。小国家群で初めて冒険者ギルドを設置したのもこの街です。昔のもっとゆったりした暮らしを懐かしく思う人々もいますが、物質的な豊かさを優先したストア家の方針は多くの人々に支持されています」


「あの人が思い描いていたのとはちょっと違う…」


「はい?」


「いや…。なんでもない。もう一つ教えてほしいのだけど…。今、ロヨラ家ってどうなっているの?」


 プレスの更なる問いに受付嬢は顔色を曇らせる。


「ロヨラ家の皆様は現在もお屋敷にお住まいですが…」


「お住まいですが…?」


「…御息女のキャロライン様に関連して四年前から依頼が出されています。まだ依頼を達成できた方はおりません。詳細はそれをご確認ください」


 そう言われたプレスはティアを伴い掲示板へと移動した。


「四年間も未達成の依頼って何なんだ…、ええっと…、ロヨラ家からの依頼は…」


 外は既に暗くなっており依頼は殆ど残っていない。プレスは掲示板の一番高い位置に貼ってある一つの依頼に目を止めた。


「これか?どれどれ…、……………そんな!?」


 手に取った依頼書に目を落としたままプレスの表情が厳しさを増す。


「主殿?」


 プレスは無言で依頼書をティアにも見せる。そこには概ねこのよう依頼内容が書いてあった。


『依頼内容:呪いの除去、達成条件:ロヨラ家のキャロライン嬢にかけられた狼の呪いを解呪すること、依頼者:ロヨラ家及びストア家、報酬:金貨百五十枚』


「主殿?このロヨラ家とはどのような関係が…」


 そこでティアは言葉を切る。プレスは俯いたまま拳を握り締めていた。


「四年間か…、気付けなかったのはおれの失態だな…。約束したからね…、何があったのかはまだ分からないけど…、必ず助けるから…」


 そう呟いてプレスは目を閉じるとしばし沈黙する。


「よし!」


 そう気合を入れて顔を上げるプレス。そこにはいつも通りのプレスがいた。笑顔でティアへと向き直る。


「ティア…。勝手に決めて悪いけどこの依頼を受けることにするよ。手伝ってほしい!宿を紹介してもらって明日ロヨラ家の屋敷に行こう。事情はその時に全部説明するよ」


 そう言われてティアも笑顔になる。


「もちろんだ!主殿の御心のままに!我もその依頼達成に全力を尽くそう!」

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