第177話 屋敷と執事
冒険者ギルドから紹介してもらった宿に泊まったその翌朝、腰に長剣を差し木箱を背負ったプレスは魔導師風のローブを纏ったティアを連れホワイトランドの街を歩いている。
見事な秋晴れに涼やかな秋風が心地よい。
二人は依頼主であるロヨラ家の屋敷を目指していた。
「主殿、ロヨラ家の屋敷はこの街中にあるのか?」
「いや…、以前来たときは北の外れにちょっとした森もあるような広い土地を持っていてそこに屋敷があったけど…。街が大きくなっているからね。どうなっているのか…」
そんな話をしながら街の北側を目指して二人は歩を進める。ほどなくして敷地を囲っていると思われる高い塀に行き着いた。塀に沿って歩き続けると大きな門があり二人の門番が立っている。依頼のために訪れた冒険者であると説明すると門の裏にあった詰所からもう一人が現れ意外にもあっさりと屋敷まで案内してくれることになった。
「お二人はこの街を拠点に?」
そう話しかけるのは案内役を買ってくれた門番の一人。まだ若く十代だと思われた。
「いや…、旅の途中でね。昨日この街に着いて、その足で行ったギルドで依頼を受けたんだ」
「そうだったのですね。当家の依頼を受けて頂いたということはかなり高位の冒険者様ですよね?A級とか…?もしかしてS級ですか?」
四年も未達成だった依頼…、つまり多くの冒険者が失敗してきた極めて困難な依頼ということを皆理解しているのだろう。門番の言葉は丁寧だが口調には期待と諦めと揶揄が入り混じっていた。
「おれはC級冒険者で彼女はE級だよ」
さらりと言って歩き続けるプレス。屋敷の玄関口が目に入る。門番は怪訝な表情を浮かべた。案内するのに相応しくないと思ったのかもしれない。何やら口を開こうとしたその時、それを遮るように声がかかる。
「キースさん。お客様ですか?」
どこから現れたのか五十代後半と思われる執事服の男性がその穏やかな言葉と共にプレス達の背後へと現れた。
「ブ、ブライ様!あ、あの冒険者ギルドで依頼を受けられた冒険者の方をお連れしました」
キースと呼ばれた門番が慌てたように説明する。プレスは未だに振り向かない。
「そうでしたか。ようこそロヨラ邸へ。私は執事のブライと申します。ここからは私がご案内しましょう」
そう言ってブライと名乗った執事は丁寧に一礼する。その見事な所作が終了するタイミングでプレスが振り返った。
「ブライさん…。久しぶりだね?」
プレスの顔を見たブライはしばし唖然とする。
「レイノルズ様…」
かろうじてそう絞り出すとその場に片膝を着いた。傍にいたキースも慌てて同じように膝を着く。
「まさか…、まさかレイノルズ様がおいでになられるとは…。わ、我等…、我等の祈りが天に通じたとしか…」
その声が震えている。
「いやいや…、そんな跪かないでくれ。今のおれは依頼を達成するために来たC級の冒険者だからね…?ほら…、立って立って…」
そう言ってプレスは二人を立たせた。
「う、う、う…、取り乱してしまい申し訳ありません」
感激したのかブライは目尻を押さえながらそう言う。
「ブライさん。挨拶はこれくらいで十分だよ。依頼の内容が気になっているんだ。キャロルに呪いが掛けられたって?」
プレスの言葉にブライは顔を上げる。
「そうなのです。どうか…、どうか奥様とお会いになって詳細をお聴き下さい。そしてお嬢様を…、お嬢様を…」
プレスはブライの肩に手を置いて笑顔を作った。
「任せてくれ!おれと最高の相棒がいる!助けてみせるさ…。約束だからね」
そう言ったプレスはティアと視線を合わせて頷き合うのだった。
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