第153話 ミケのダンジョン探索

「ミケ殿。ここが入り口になります。」

「ここかー」


 練武場での決闘紛いの模擬戦から二日経った夜。ミケことレーヴェ神国聖印騎士団二番隊隊長であるミケランジェロ=ハーティアはA級冒険者パーティ『救いの癒し手』の案内でヴァテントゥールの北西にある小規模ダンジョンの入り口へと到着した。ミケの全速力ならもっと早く到着できたが他の冒険者との連携を重視して行動している。


 既に到着していた近くの街から派遣されている他パーティと合流する。


 模擬戦後のS級冒険者パーティの面々は素直に今回の布陣を受け入れた。


 北西にある二つのダンジョンをミケとサラが担当し、西にあるダンジョンをS級冒険者パーティ『風の狼』と『翡翠の矢』が共同で担当することになったのである。


「先に来ていたパーティに確認しましたが、このダンジョンを封鎖して二日が経過しており、その間に周辺のギルドへ行方不明の届出が出ていないこと、このダンジョンから出てきた者がいないことが確認されています。そして既にダンジョン内の異常が確認され魔力の霧が充満していることからもダンジョン内に生存者はいないとの判断ができると思います」


 そう報告してくれるのはA級冒険者パーティ『救いの癒し手』のリーダーであるガルロイド。『救いの癒し手』という優しい名前のパーティを率いるリーダーとはとても思えない全身鎧プレートアーマーを纏った上に巨大な大盾を背負った髭面の巨漢である。


「了解。ガルロイドさん、このダンジョンの階層数は?」


「第五層までと聞いています」


「第五層までしかないダンジョンに二日間以上出てこないのは不自然…ってことでいいか!」


 ミケはのびーっと背筋を伸ばす。そんなミケを怪訝な表情で見つめるガルロイド。


「ま、まさか今から潜られるのですか?」


「うん?そうだよー。疲れてないし、あたいに昼夜の差は関係ないからね」


 可愛い耳をぴこぴこ動かして答えるミケ。


「あ、あの、わ、私を同行させて頂けないでしょうか?」


「ガルロイドさんを?どうして?」


「『風の狼』のリーダーであるヴォルフ殿との戦闘を拝見しました。一人の戦士として私はミケ殿の強さに感服しました。この調査に同行させて頂きミケ殿の強さを学ばせて頂きたいのです!それに私は壁役。視界の悪いと聞いた今回のダンジョンでは役に立ちます!」


「うん。いいよー」


 そう答えたミケに安堵の表情を浮かべるガルロイドだがその眼前にミケは人差し指を突き出した。


「約束してほしいことがあるけど!」


 その素早い身のこなしに緊張感を持つガルロイド。


「あたいに壁役は必要ない。だからガルロイドさんは自分の命を守ることだけに気を付けて!そしてあたいの側から離れないこと!いい?」


 ミケの体から僅かに殺気が漏れる。それだけでガルロイドは生きた心地がしなかった。


「か、必ず約束を守ります!」


「よろしい!」


 ガルロイドはミケに同行するためパーティメンバーに指示を出し用意を整えた。


「ではしゅっぱーつ!」

「宜しくお願いします!」


 ビキニアーマーの上にローブを纏った猫族ワーキャット全身鎧プレートアーマーを纏った大男は異常の発生している小規模ダンジョンに潜る。


 入り口付近は魔物もいなく魔力の霧も少なかったのだが…。


「うーん。少し進んだだけなのに思った以上に何も見えないねー。それに魔物も一杯だな…」

「ミケ殿はこの状況で周囲が分かるのですか?」


 ミケの呟きを聞いたガルロイドは驚く。しかしガルロイドのこの反応が普通であると言えた。ダンジョン内部は赤紫色の霧が充満し目で物を捉えることは困難を極めている。


「よっと!」


 ミケが腕を振るうと霧の中から飛び掛かってきた魔物をいつの間にかミケの手にあった短剣が両断し瞬時に絶命させる。


「ゴブリンだ。どんどん来る!確かに強くて素早い!」


 そう言いながらも次々と飛び掛かる凶暴化したゴブリンを苦もなく斬り払う。


「ガルロイドさん!」

「ぐわっ!」


 ミケが声をかけた直後、ガルロイドは側面から強烈な打撃を受けバランスを崩し倒れ込む。距離が近づき魔物の姿が露わになると棍棒を持ったホブゴブリンであった。魔物が次の一撃を放とうとしている狙いはガルロイドの頭部だ。


「ホブゴブリンがここまで強いなんて…」


 ガルロイドは驚愕した。彼はA級のベテラン冒険者である。ホブゴブリンはゴブリンよりは手強いが通常に戦いで遅れを取るようなことはない。そんな自分の力がここでは全く通用しない。思わずガルロイドは目を閉じる。


「そんな簡単に諦める必要はないぞ!」


 ミケの声に目を開けるとホブゴブリンの首が落ちる。


「ミケ殿…。感謝します」


 立ち上がり一礼する。なんともないと言った風のミケ。


「囲まれたみたい。結構斃したから…。一定の距離をとっている…」


「いかがなさいます?」


 その問いにニヤリと笑ったミケは素手のまま構えをとる。


「?」


「ガルロイドさん!あたいの背後へ!絶対に動かないで!」


「は、はい!」


全筋力解放マックスオーバードライブ!!」


 そう言うとミケの全身から夥しい魔力が溢れ、あっという間に真紅の魔力がミケの全身を包み込む。


 ビキニアーマーから覗いていたのは華奢な肢体であった筈なのに今やミケの身体はビキニアーマーがはち切れんばかりの筋肉質なものへと変わり始める。

 そうして鉄条を幾重にも束ねたかのような肢体になると肌の表面に真紅の入れ墨タトゥーが現れた。


 その尋常ではない魔力量と身体の変化にガルロイドは圧倒される。


「こ、これは身体強化の魔法?これ程のことが可能なのか?ま、まさか床を…?」


「ガルロイドさんいい感してる!第五層までね」


「そ、そんなことが!?」


 転瞬、真紅の魔力がミケの右手に集まる。

「は!」

 ミケが床に向けて右の拳を叩きつけた。


 凄まじい轟音と共に床が崩れ落ちる。


「うわああああああああああ!!!」


 ガルロイドの絶叫が地下深くへと消えるのだった。

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