第133話 指名依頼
「C級冒険者プレストン…。街に居てくれてよかったぜ…。俺がギルドマスターのギランだ」
ギルドの制服を随分と着崩した白髪で厳つい顔の男がそう言ってくる。かつては名うての冒険者だったのだろう。五十代を思われるががっしりしたその体つきはまだまだ現役時代の名残を残していた。
ここはギルドマスターの部屋である。
「それで…、いきなりここに連れて来られたけどおれに何の用があるのかな?」
とりあえずプレスは何も知らないことにする。
「それなんだが…、まず聞かせてくれ!お前たちと宰相家の間で何があった?」
何も言わない訳にもいかないのでプレスは事情を話す。
「商船の護衛をしていたらリンドバル号が魔物達に襲われていてね…。それをおれ達が助けた。その後、ちょっと揉めて決闘になって近衛騎士を三人倒して…、その後、リンドバル号の護衛として船に乗り込んでリドカルまで来たって感じ?」
リヴァイアサンの部分だけを端折って端的に説明するプレス。するとギルドマスターは額を押さえる。頭痛がするらしい。
「なあ…、教えてくれ…。なんでモンスターに襲われているところを助けに入ったのに宰相家の騎士と決闘になったんだ?」
「それに関しては答えないと言わせてほしいな。おれの冒険者としての能力に関係しているからね」
リヴァイアサンをぶちのめしたことは純粋な自分たちの力なのに、魔道具使用の因縁をつけられた挙句、その魔道具とティアを理不尽に奪おうとしたから決闘の形にして決着を図った、ついでに騎士達は悪さをしているらしかったから決闘で斃すことで宰相家に影響が出ない形で今後の悪事を防止した、というのが真相だがどう説明しても信じてもらえなさそうだったので簡単に流してしまうプレスである。
「そうか…、それなら仕方ないが…」
能力は明かさない。それは冒険者の鉄則であり本能に刷り込まれているものだ。能力を明かすことは弱点を曝すことに等しいため命懸けで依頼を遂行する冒険者は自身の能力を秘密にするのだ。
「状況は把握した。これからが本題だ。宰相家からC級冒険者のプレストンがギルドを訪れた場合は宰相家に向かわせろとの指示が来ていたのだ」
「指示が来ていた?なんで過去形かな?」
「その指示から二ヵ月、お前は姿を現さなかった。そして二日前にその内容が変更になったのだ」
「変更になった?」
ギルドマスターが一枚の依頼書をテーブルへと置く。
「そうだ。そしてこれが依頼内容だ」
そう言われてプレスは依頼書に目を通す。
「宰相の娘であるマリア=フランドルの護衛…。マリア=フランドルが近く首都ヴァテントゥールへと視察に赴くので近衛騎士と冒険者で護衛を行うことになった…?騎士は六名を予定していて、荷物持ちと護衛として冒険者パーティを二つ雇いたいと…。可能な限りC級冒険者プレストンとE級冒険者ティアをって…。指名依頼か…」
そう言って顔を上げるとギルドマスターは頷いて言う。
「そうだ。C級とE級相手に指名依頼とは珍しいができない訳じゃない」
一般の依頼方法では冒険者に遂行させるかを指定することはできない。しかし特定の冒険者に依頼を遂行させたい場合には報酬を相場の倍にすることで指定依頼を出すことが出来る。
この世界では冒険者と貴族との折り合いは良いとは言ない。貴族が依頼を出す場合、トラブルを回避するためにも信頼できると考えている冒険者に依頼を出したいときは特に指名依頼が利用された。
「知っていることとは思うが指名依頼であっても拒否は当然できる。しかし受けない場合は等級の審査に影響が出ることになる」
等級の上下などに興味のないプレスではあるが、
「分かった。依頼を受けよう」
そう答えるプレス。
「おお!受けてくれるか?」
「夏が終わったら別の街に行こうと思っていたからね。首都ヴァテントゥールも悪くない…。ティアもそれでいいかな?」
「我は主殿の決定には全て従うから問題ない!」
「ありがとう。そう言うことだからギルドマスターは安心していいよ。ここで拒否してあなたの頭痛が悪化することは避けたいからね?」
「すまん。宰相家は貴族家だが冒険者への理解がある珍しい貴族なのだ。ここで軋轢を生むのは避けたかったので助かる」
プレスはギルドマスターのその言葉を聞いた後、依頼書を持って立ち上がる。
「指定の日時に宰相家に行くよ。手続きは受付で?」
「ああ。それで問題ない」
「分かった。ティア!行こう…。旅の用意だ!」
「心得た!主殿!」
そう言って二人は受付で依頼の手続きを行い。旅の準備を整えるためギルドを後にするのだった。
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