第134話 出発と宰相家の屋敷
「いろいろと世話になったね。ありがとう!」
「クリーオゥ殿!感謝する」
旅の準備を整えたプレスとティアは老婆へと感謝を述べる。
プレスは新しいシャツと新調した革のベルトにマジックボックスを装着している。普通の長剣を腰に差し、背中に木箱を背負っているのはいつも通りと言えた。ティアも新しい魔導士風のローブを纏っている。先日の酒場で来ていたような露出の多いものではなく、パンツとブーツにローブを羽織る形の旅人スタイルだ。
「こちらこそ楽しい日々をありがとうさね。お主たちにこんなことを言う必要もないかもしれんが、気を付けてね」
そう笑顔で話すクリーオゥの傍らには美しい蒼い長髪と蒼いワンピースを来た少女が一人。
「お別れするのが辛いです…」
しょぼんとしている女の子の頭をプレスは優しく撫でる。
「サラ、またね。海で何かあったら君を頼るからその時はお願いだよ?それと長老や皆に宜しくね!」
「今生の別れではない。またお主たちの棲み処に遊びに行かせてくれ!」
二人の言葉に笑顔を浮かべる少女。彼女は大河オーティスで二人が遭遇したリヴァイアサンである。一族を代表して見送りに来てくれたのだ。個としての名を持っていなかったリヴァイアサン達であるがこの子はティアと同じように名前が欲しいと言ってきたのでプレスがサラと名付けたのである。本人はティアと同じような眷属化も望んだのだが、プレスはそれを行わなかった。プレスが使う神滅の魔法は未来永劫その存在全てを隷属化する。本来リヴァイアサンという魔物は海の世界においてその秩序を保つために存在している。彼女をそんな本来の生き方から外れた存在にしたくなかったプレスであった。
「助けて頂いたことはずっと忘れません。本当にありがとうございました。お元気で!」
そう言ってぺこりと頭を下げる。
「さて、行こうか?ティア!」
「うむ!何が待っているのか楽しみだ」
そうして二人は指名依頼の集合場所である宰相家の屋敷へと向かうのであった。
宰相家の屋敷はリドカルの街を見下ろすことが出来る高台にある。門番に依頼書を見せると馬車が留め置かれている広場へと通された。何人かが作業をしているが全員宰相家の使用人のようだ。
「確か護衛として冒険者パーティを二つって話だったから、もう一つの連中は来てないのかな?」
「ふむ…。我らはこの馬車の傍らで待機ということか?」
そんなことを話していると、建物の奥から軽鎧を身に着け、長剣を腰に差した大柄な男がこちらへとやってくる。恐らく宰相家の騎士の一人だ。軽鎧を着けていることから同行するメンバーかもしれない。
「貴様らか!?我らに同行するという冒険者パーティは!?」
そんな騎士にいきなり敵意に満ちた声を掛けられプレスはぐったりした表情になる。港湾国家カシーラスの宰相家とも呼ばれるフランドル家と言えば貴族の中でも名門と知られている。その宰相家付きの騎士になるということは首都ヴァテントゥールの王城で働く騎士や文官には及ばないがこの国を代表する出世コースに乗ったといっても過言ではない。彼らにとって冒険者とは無法者の集まりのように見えるのだろう。冒険者を見下す者がいても不思議はなかった。
「ああ。そうだけど…。えっと…。あなたはどちら様ですか?」
しかしプレスは怯むことも媚び諂うこともなくいつもの調子で問い返す。
「黙れ!!貴様は聞かれたことに答えろ!名は!?」
流石に困惑するプレス。ギルドマスターの話では宰相家は冒険者に理解があると言っていた。実際、大河オーティスで出会い今回の護衛対象である宰相の娘マリア=フランドルはプレス相手に非常に丁寧な物腰で対応してくれた。それに比べるとこの騎士らしき男の高圧的な態度は一体何なのか…。
「あなたはこの家の騎士かな?人に名を尋ねるときは先ず自分の名を名乗るのが騎士の作法だろう?」
「主殿…。ロクな騎士がおらんのだな…。宰相家が聞いてあきれるぞ…?」
平然と返すプレスとティアの言葉に騎士の顔が怒りに染まり…。
「この野良犬がごとき冒険者風情が!!」
激昂して剣を抜き放つ。周囲にいた使用人たちが慌てて逃げ出した。
「何でこうなるかな…?」
そうプレスは口の中で呟くのだった。
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