第131話 取り払われた憂い
プレスは転移魔法を用いてやってきたティアとクリーオゥをリヴァイアサンの棲み処で出迎える。既にクリーオゥは老婆の姿だ。
「ティア!クリーオゥ!大丈夫だった?」
「うむ。何の問題もない。我に魔道具を使ってきたあの男は手配書が回っていたらしいので騎士団の詰め所前においてきた。だがあの状態では騎士団は何も情報は引き出せまいな…」
「あの魔物は斃したよ。そして魔物が持つ記憶を調べてみたさね。プレスちゃんに何かいい情報があればと思ってね」
「クリーオゥ…。手間を取らせたね」
「ひっひっひっひっ。そんなことはないさね。むしろ最後と任せてくれて感謝しているくらいだよ」
「それで、手に入った情報って?」
「それがね…」
クリーオゥによるとあの魔物は何者かによって創り出された魔物であり、命を受けリドカルにやってきた。命令の内容はリドカルに集まる西側の貴族を殺し街を混乱に陥れること、そしてリヴァイアサンを洗脳し配下に加えること。そして『我らの存在を表に出さないため、自らが動くことは極力避けよ』という台詞が強く意識に張り付いていたという。
「そう言うこともあって魔道具制作に取りつかれた男を洗脳したんだろうねぇ」
クリーオゥは話を続ける。
「ここまでは割と簡単に分かったんだけど、誰に命令されたとか、どんな勢力下にいるのかって部分は意図的に消されていてよく分からなかったさね。仲間にアンデッドの魔物がいることくらいかね…。それといくつかの言葉がさっきの台詞と同じように意識下にあったさね」
「どんな言葉?」
「ガーランド帝国とフレデリカ聖教国、そして
プレスは天を仰ぐ。このリヴァイアサン達の棲み処から空は全く見えないが水がドーム状の壁に沿って流れ落ちる不思議な光景はある種の美しさを伴っていた。
「やっぱり繋がっているのかな…」
「主殿?」
「ガーランド帝国とフレデリカ聖教国は古くからの同盟国だ。これは昔から変わらない。ただあの魔物達…。あれとの繋がりがあるとなったらちょっと面倒かもね…。でも確たる証拠もない…」
「調査などを行うことを考えているのか?」
ティアの問いにプレスは首を振る。
「いや…。この街でそこまで厳しく監視をしていないと言ってもクリーオゥの目を誤魔化すような奴らだ。ティアに杭を打ち込んだのも二百年前。秘密裏に…、深く静かにあいつらは動いてきたんだ。今回の場合も計画が上手く行っていたらあの魔物の姿は表には出てこなかった…。多分だけどフィルゼガノンってダークリッチは人前に姿を現したから…あの侵攻が恐らく初めての表立った行動だったんじゃないのかな…?侵攻自体は止めたけどね…。だから出会ったのならおれ達なら止められる。ただこちらから見つけることは不可能に近いだろうね…」
そう言ってプレスはリヴァイアサン達へと視線を移す。
「とりあえずあのリヴァイアサンに魔道具を使用しようとした者達をこの街から一掃したんだ。今はそれを喜ぼうと思う。それでいいだろう?ティア?クリーオゥ?」
「勿論だ!主殿!」
「ひっひっひっ。異存はないね」
「お話は終わりましたかな?」
そう声を掛けてきたのはリヴァイアサンの長老。傍らには妹的な姿の祭りに来ていたあの個体、そして小竜たちが控えている。全員が深々と
「此度は我らのために戦って頂き感謝の言葉もありません。我らリヴァイアサンの一族はこれを機に
「ありがとう。だけどそんなに気を使わなくても大丈夫だよ。海で手を貸してほしい時はお願いするね?そして…」
プレスは長老の傍らにいる大河オーティスで出会った妹的な姿の個体へと近づいて頭を撫でる。
「約束が守れてよかった…。これで一緒に祭りに行けるね?」
「は、はい!本当にありがとうございます!!」
ペコリと頭を下げるリヴァイアサン。
「さてと…、長老!いろいろあったけど大体のところは上手くいった。天井の大穴から侵入者が来ないようにティアに結界を張ってもらおうと思う。折角皆ここに居るんだ…、それが終ったら宴の続きをやらないか?」
「ピピィ!!」
「わーい!」
リヴァイアサン達から歓声が上がる。
「御身の御心のままに…」
「主殿!いい判断だ!では結界を張ってしまおう!」
「儂は料理の準備をするさね…」
ここは巨大ダンジョン『南海の迷宮』の最下層。憂いを振り払ったリヴァイアサン達との宴は夜遅くまで続くのであった。
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