第110話 拗れる話

「貴様がこの部屋に入った時点で魔道具の類を持っていないことは分かっている!さあ!教えて貰おうか!?武器と魔道具はどこだ!?」


 現在、プレスの装備は腰に差した長剣のみである。背中の木箱はティアと一緒に置いてきた。考えてみると武装解除をしていない冒険者を宰相の娘に会わせるというのは確かに不自然だった。恐らくプレスが感知した結界のようなもので特殊な武器や攻撃系の魔道具を探知しているのだろう。そして長剣のみを携えているプレスは眼前の騎士達の足元にも及ばないと判断されたようだ。


 そんなことを考えつつプレスは正直に話すことにする。


「そんな武器や魔道具なんて持ってないけど?」


 プレスの言葉に四人いる騎士の中で最も序列が上と思われる騎士が声を荒げる。


「ふざけるな!!貴様らは自分たちの力だけであの巨大な竜を退けたと言うのか!?」


「そうかもしれないだろう?」


 プレスは大したことでもないといった様子で答える。


「あなた達…、助けてくれた恩人に向かって何を…」


 先程まで呆然としていた宰相の娘であるマリア=フランドルが困惑した様子で尋ねるが、船長のグレイスが半ば強引に彼女を外へと連れ出した。その際、グレイスの口が『こんなことになってすまない』と音もなく告げたのをプレスは見逃さなかった。


「ったく…。貴族を乗せる船ともなると、船長も大変だ…。こんな面倒ごとに巻き込まれるんだからな…」


 その呟きに騎士達は気色ばむ。


「なあ…、よく聞けよ…?おれはそんな武器や魔道具は持っていない。まずこれが真実だ。だがな…もっと真実なのは…」


 そこでプレスは騎士達を見据える。


「もっと真実なのは、もしおれ達がそんな武器や魔道具を持っていたとしても、それをお前たちに見せることも…、渡すことも…、そんな必要は絶対にないと言うことだ。目的地のリドカルが所属する港湾国家カシーラスでもおれが船に乗ったエルニサエル公国でもダンジョンで手に入れた品は手に入れた者にその所有権があると法律で決まっているはずだが違うのか?装備についている家紋を見れば分かる。お前たちは宰相家付きの騎士なのだろう?カシーラスの宰相家…フランドル家は法律を知らないのかな?それとも知っていて法律を踏みにじり、自分たちの騎士を使って冒険者の財産を奪うのか?」


 あくまでも落ち着いたトーンで淡々と話すプレスの言葉にどんどんと顔を歪める騎士達。


「もしそうであるならば…お前たちは盗賊と何も変わらない。そうであればお前たちが仕えるカシーラスの宰相家と言うのは盗賊の親玉ということか?」


 プレスは敢えて挑発した。この騎士達の慣れた様子から見てこれが初めてではないだろう。そして恐らく宰相家ではこのような行為が罷り通っていることは把握していない。


 宰相家であるフランドル家がどうなろうと関係ないプレスであるが、宰相の娘であるマリアのことを考える。この騎士達を叩きのめしてギルドに連れて行き全てを明らかにすることは簡単だ。しかしそれでは宰相家の名誉に傷がつく。貴族にとって名誉は重要なものだ。今日初めて会った相手ではあるが冒険者を見下すことなく気さくに接してくれたマリアの、そしてその家の名誉をできる限り守る方法をプレスは選択することにした。


「貴様!!わが主君に対しそのような物言いをして無事にこの船を出られると思うな!!決闘を申し込む!!」


 プレスの挑発は完全に意図通りの言葉を騎士から引き出していた。

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