第108話 何かの影と竜の願い

 リヴァイアサンの話をまとめると…。


 このリヴァイアサンは昨日、人族へと姿を変え河口の街リドカルへと見物に出てきたらしい。人懐っこい個体らしくリドカルの街で行われている夏祭りの準備を見に来たのだと言う。そこで魔導士と思われる者に何らかの魔法をかけられたらしい。


 気付けば大河オーティスを遡上していた。


 そしてリンドバル号の紋章を河底からみたその瞬間、目の前が真っ赤に染まり周辺の魔物を巻き込んであのような事態を引き起こしたらしい。


「リンドバル号の紋章?」


 プレスの視線の先には空を飛ぶカモメと港町が描かれた紋章があった。港湾国家カシーラス王家の紋章である。


「今はもう何ともない?」


「ええ。こんなことを引き起こして申し訳ありませんでした」


 しゅんとしているリヴァイアサンにプレスは優しく声を掛ける。


「君が人を襲うような魔物ではないことは分かっている。君が紋章を目にしたときに、君のヘイトを増幅させその紋章があしらわれている物へと向けるような特殊な魔法をかけられたんだ…。狙いはこの国の王家か、乗っている要人…。誰かがそれを君に襲わせたんだ。だけどリヴァイアサンは海の王者で竜の種族…。精神に作用する魔法への抵抗も強いはずなのに…」


「主殿!恐らく何かがこの国か街の水面下で動いているのかも知れぬな…」


「…だろうね」


 そう言ってプレスはリヴァイアサンを見上げる。


「君は夏祭りが好きなの?」


「ええ。陸上の方々の暮らしは興味深いものです。そして夏祭りは毎年行っていますがいつもとても楽しいです。でもこんなことになって…、きっと私は陸に上がらない方が…、皆様が安全に暮らせるのならば今後は…」


 項垂れるリヴァイアサンの口先をぽんぽんと叩いてプレスが笑う。


「そんなに落ち込まないで!大丈夫!君に魔法をかけたやつがまだリドカルにいるようなら見つけて対処するよ。いなかったらいないで夏祭りに誘うから一緒に見物しよう!」


 驚いたように目をぱちぱちさせるリヴァイアサン。


「よ、よろしいのですか…!?あなた様方にそんなことをさせるなんて…?」


 そんな海竜にプレスは優しい笑顔で答える。


「そんなに落ち込んでいる竜を放っては置けないよ。ティアもいいだろう?」


「もちろんだ、主殿!同族である竜種が悲しんでおるのを見過ごせるわけがない!」


 古来より人語を話すドラゴンを助けることはかの国の騎士にとって非常に名誉なこととされていた。ティアと出会ったときと同様、プレスは遠い過去である誓いの下、このドラゴンリヴァイアサンを助けたいと思ったのだった。


「あ、あ、ありがとうございます!!」


 そう言って頭を下げるリヴァイアサン。


「棲み処なら安全だよね?当分は戻ってじっとしていてくれ。何かあったら連絡するよ」


「分かりました。私の棲み処はリドカルの沖合いにある『南海の迷宮』の最下層と繋がっています。もし棲み処に来て頂く場合は『南海の迷宮』を攻略頂くのが人族としては最も簡単な道かと考えます」


「分かったいろいろと話をありがとう。あ、この魔力をあげるよ。リヴァイアサンも魔力を食料にできるだろう?一族の竜たちにおれロード・オブ・ラグナロクが近くに来ているけど問題ないことを伝えておいて!」


 そう言ってプレスはぽわぽわとした球形の魔力を創り出しリヴァイアサンへと放つ。ぱくっと飲み込んだリヴァイアサンは満足そうな鳴き声を上げる。


「では、ここでいったんお別れかな?君をここに留めておき過ぎると、大河オーティスと海の魔物の生態系への影響が心配になるからね」

「また祭りのときに会おうではないか!」


 リヴァイアサンは雄叫びを上げると、プレスとティアに感謝の言葉を念話で伝え踵を返すと水中へと姿を消していった。


「主殿…、またいろいろとありそうだな…?これから行くリドカルと言う街になんらかの影が差すか…?」


 リヴァイアサンを見送った後、ティアのその言葉に頷くプレス。


「全ては河口の街リドカルに着いてからかな…?とりあえずリンドバル号に乗っている要人に挨拶してくるよ…」

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