第55話 魔を滅するもの
「主よ!壁の向こうの状況は良くないようだ…。我が背に乗れ!!」
そう叫びながらドラゴンは巨大な背中を見せる。
「よっと!」
そう言われたプレスはティアの背中に飛びついた。
「大丈夫か?…ではこの壁を突き破る!振り落とされるでないぞ?」
「ああ…行ってくれ!!」
プレスがそう答えるとティアが咆哮を上げた。その咆哮はもはやグレイトドラゴンのそれとは全く異なるもの…。神々の
そして…。
轟然たる大音響が周囲に響き渡る。その音に呆然としていたトーマスが顔を上げる。その瞬間、正面の壁を突き破って巨大な何かがこの空間に突入してきた。土砂をまき散らしながら咆哮を上げるそれは紛れもなくドラゴンである。その背にはいつもの雰囲気を纏いながら佇む冒険者の姿があった。
「トム!!無事かい!?」
聞き覚えのあるその声にトーマスの瞳に光が戻る。かろうじて生きていたカダッツとミラは声も出ない。
「プ、プレスさん!!…プレスさん!!」
その光景にプレスの名を叫ぶトーマス。
「バカな…。何故ドラゴンが自由になっている!?」
これまでの余裕はどこへ行ったのか驚愕の表情を浮かべる闇の魔工師ファウム。プレスはその姿を確認する(よりも早くといっていいだろう)神速で移動し斬りかかっていた。一瞬にしてローブを纏った魔物の右脚と右腕が斬り飛ばされる。
「ぎぃああああああああああああ!なんだ!なんだ!これは…!!」
「痛みって…懐かしいだろう?」
エルダーリッチに物理攻撃はほぼ無効であるとされている。しかしプレスの輝く長剣は明確な痛みを与えていた。
そのことによって魔力で宙づりにされていたサファイアの拘束が解ける。プレスはサファイアを受け止めながらティアに命じる。
「ティア!その魔物を拘束しろ!」
金色の魔力が全身から溢れているティアが咆哮を放つと、転移魔法で逃げることも忘れてのた打ち回る魔物が光り輝く立方体の空間に閉じ込められた。
「ふん。もはや何もできまい…。このようなものに不覚を取っていたとは…」
過去を思い出したのかティアが少し不満そうな表情をする。
プレスはサファイアに目を落とす。かろうじて死んでいないだけと言える状態だった。トーマスが走り寄る。
「プレスさん…。来てくれたんですね…」
「ああ。遅くなってすまない」
「サファイアが…、サファイアが時間を稼いでくれたんです。プレスさんが必ず来てくれるからって…。でもそれでサファイアが…」
トーマスが涙ながらに話すがもう言葉が出てこない。
プレスはサファイアをそっと床に寝かせる。そしてトーマスの肩を優しく叩いた。
「大丈夫!問題ないよ!」
トーマスを傍らにいつもの雰囲気のままプレスが長剣を掲げた。すると光の粒子が空間に現れてプレスの長剣に集まり始める。そうして眼が眩むほどの光の奔流が生まれた。プレスはその剣をサファイアに向かって振うと光はサファイアを包み込むように流れる。
「えっ?」
トーマスが驚きの声を挙げる。光が触れた箇所の傷がみるみる塞がってゆく。それだけではない欠損した部位も全て元通りになってゆく…。
「プレスさん!」
表情に驚きと共に希望の色が戻り始めるトーマスにプレスは笑顔で答える。そして光が消えたとき…。
「ううっ…。ここは…?」
サファイアが意識を取り戻す。
「サファイア!」
トーマスが抱き着く。
「殿下?…こ、これは…?私は…生きている…?」
しがみつくトーマスの頭を撫でつつ、まだ状況をよく呑み込めていないサファイアにプレスが声をかける。
「よかった…。遅くなってすまなかったね…」
その言葉に顔を上げるサファイア。
「プ、プレス殿…?来てくれたのだな…。しかし…私は…?確か魔物に…?」
「酷い怪我だったけど間に合ってよかった…。君たちを傷つけた魔物はそこで無力化しているよ」
「なんと…。あれほどの魔物であったのに…」
サファイアは輝く立方体の中でまだなお転げまわる魔物を見て驚く。
「さてと…」
プレスが改めて魔物の方に目を向ける。
「いろいろ聞いてみようか…」
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