第33話 冒険者ギルドと猪の魔石

「大きいな…」

 思わずつぶやくプレス。重厚そうな扉を開けて中に入る。冒険者ギルドの建物というものは、どの街でも中身は似ていることが多い。


 こちらも入ると広いホール。ホールの左手に依頼が貼り出される掲示板、さらに左手その奥には個別打ち合わせ用の消音魔法を付与されたブースが造られているようだ。


 ホール右手には酒場なのか飲食のスペースがとられているらしい。どうやら宿泊施設もあるようだ。首都のような場所では駆け出しの冒険者も多く集まる。彼らのために格安で最低限の宿泊施設を提供する場合があるのだ。資料室やギルド職員の事務室、マスタールームなどは二階以上にあるのだろう。

 そしてホールの奥、カウンターが複数のブースに分かれているが、向かって左側が依頼の受付。右側が依頼完了と報酬受け取りのカウンターというのは同じらしい。訓練場や解体場の場所を示す案内もある。どうやら相当に大きい建物らしかった。


 プレスは巨大な猪の魔石について確認するため、右側のカウンターを目指した。この時間帯はまだ人が少ない。恐らくこれから混むのだろう。


「いらっしゃいませ。依頼の報告でよろしいすか?」

 きりっとした赤毛の女性が眼鏡越しに対応してくれる。どうやらここには制服があるらしい。濃紺のパンツスーツが凛々しい。そして同じく濃紺の上着には金色の帯が襷掛けに一本通っている。この女性の凛とした佇まいに細身で濃紺のスーツ姿はとてもよく似合っていた。


「実はこの街に来る途中。路銀を集めるために魔物を狩ってみたんだ。そうしたら巨大な魔猪にであってね…。なんとか斃したんだけど、そんな魔物の情報とかって出てない?」


「はい。恐らくそれはエレファントボアであると思われます。ハプスクライン周辺に住むボアの一種で巨大であることが他のボアとの区別となります。常設の討伐・狩猟依頼が出ていますので、皮、肉、魔石などは随時受け付けております」


「よかった。固有種だったんだね。結構大きくて驚いたよ…。皮や肉は持って来れなかったんだけど魔石を持ってきたから鑑定をお願いするね…」


 そう言ってプレスはカウンターに魔石を乗せる。


「!!!!!」


 先程の落ち着いた佇まいとは打って変わって驚愕の表情を浮かべる赤毛の受付嬢。


「あれ…?なんか違った…?」


「こっこっこっこっこっ!」


 きっと『これは…』みたいな台詞が言いたいんだろうな、と思うプレスは少し待つことにした。


 しばし待って受付嬢は絶叫した…。


「これはキングエレファントボアの魔石じゃあないですか!!!」


「ちょっと…声が大きいよ…」


 やってしまったと思うプレス。案の定というか何と言うか…。周囲からの視線がプレスに釘付けになってしまった。受付嬢も真っ赤になって頭を下げる。


「す、すみません。しかしこの魔石からの魔力とサイズは間違いなくキングエレファントボアのものです…」


「とりあえず質問させてね。そのキングエレファントボアってのは?」


「Aランク上位に設定されている魔物です。ハプスクライン周辺にのみ発生すると言われる規格外の大きさのボアでその突進は全ての物を破壊すると言われています。どんなに大きくても三メトルは超えないと言われるボアにおいて、エレファントボアは四~五メトル程ですがキングエレファントボアは八メトルを超えるとも言われています」


「あー…。それくらいあったかも…」


 記憶を辿るプレス。


「ところでどうやって討伐したのですか?キングエレファントボアは数が少なく当ギルドにも討伐の記録は多くありません。キングエレファントボアは皮膚は斬撃耐性と魔法耐性がとても高く、武力による討伐は困難と言われています。数年前の討伐では大規模討伐依頼が出され、数十人で巨大で深い落とし穴を掘ってそこに落した後、多数の魔導士が水魔法を用いて討伐したといった記録が残っていますが…」


「ええと…」


 言葉に詰まるプレス。かなり高ランクの魔物だったにも関わらず簡単に魔石を見せてしまったことを全力で後悔しながら言い訳を考え始める。


「とにかく討伐の詳細を伺わなくてはいけません。個室に移動して頂けますか?それとギルドマスターもお呼びしますので少々お待ちください」


「はい…」


 言い訳を言う暇すらなく進んで行く事態に観念するプレス。まだ終わりそうもない今日の一日を後悔と共に過ごすのであった。

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