第27話 厄介ごととの遭遇?
腰の長剣はカーマインの街を離れる時に購入した廉価なものである。プレスは身を翻すと巨大な猪の右側面へと滑り込むように移動し長剣を振う。
「せい!」
ブモ!?
猪が一声鳴いた途端、凄まじい音をたてながら走る勢いそのままにその巨体が横転する。すり抜け様にプレスが右の前足と後ろ足の腱を正確に斬り裂いたのだ。
ガーネットの背に横転した巨体が迫る。
「きゃああああ!」
ガーネットは必死の思いで横に跳び間一髪で轢き殺されるのを回避した。
森の木々を巻き込みながら巨体が停止する。巨大な猪の魔物はまだ生きている。目は怒りに満ち必死に立ち上がろうとするが腱を斬られた足が言うことを聞かない。
プレスは素早く近づき心臓付近に長剣を突き入れた。噴き出す血を浴びないように距離を取る。
正確に心臓近くの大動脈を切断された猪は何をされたのか分からない様子であったが徐々に動けなくなっていく。そして傷口から大量に出血しながらゆっくりと倒れていった。長剣を鞘に納めるプレス。
「ふぅー。終わったよ?」
プレスがそう言いながらガーネットに目をやると彼女は頭を抱えて蹲っていた。
「こういうこともあるからね…。ガーネットさんも懲りたでしょ?ね?帰ろうか?」
フルフルと頷くガーネットを立たせ、この巨体をどうしようかプレスが考え始めたその時…。
「ここで何をしている!」
殺気だった声が響いた。
プレスが振り向くと現れたのは軽鎧を身に付けた見目麗しい美女であった。ブルネットの髪を後ろに纏め腰には美しい拵えの剣を下げている。しなやかな細身の肢体と強い意志を湛えたグリーンの瞳が魅力的であった。
『何処かの騎士かな…?』
外見は華奢に見えるがプレスはこの女性がかなりの使い手だと見極めていた。
「おれは冒険者のプレストン。依頼の実行中でここにいる。こちらは依頼人だよ」
恐怖で震えていたガーネットも顔を上げる。その顔が驚きの表情となる。
「サ、サファイア様!?」
「知り合いかい?」
意外そうにプレスが反応する。
サファイアと呼ばれた女性も驚いたらしい。
「ガーネット!?首都を離れると言っていたではないか?なぜこんな所にいる?……はっ!」
何かに気づいたのかサファイアと呼ばれた女性は腰の剣を抜きざまプレスへ猛然と斬りかかった。
「へ?」
そんな声を出しながらもプレスは苦もなくその斬撃を躱している。
「なっ!?…逃がすか!」
サファイアは躱されたことに驚きながらも追撃して剣を振るう。刃風は中々に鋭い。プレスは太刀筋の正しさを感じていた。やはり何処かの騎士だろう。確かに強い。だがプレスにはまだまだ余裕があった。
「おいおい。いきなり斬りかかるなんて…。事情を教えてくれないかな?」
「うるさい!逆賊の尖兵が!」
何か誤解されているし、ヤバいことに巻き込まれ始めているらしい。
「お願いだから…。頼むよ…。おれには何の身に覚えもないんだから…」
そう言ってみるがサファイアの動きは止まらない。
「仕方ないか…。ごめん!」
プレスは己の肩口を狙うために剣を振りかぶるサファイアとの間を驚くほどの速さで詰め脇腹に拳を当てる。
「ぐっ!」
予期せぬ反撃にサファイアの動きが止まる。プレスは振りかぶっていた腕を後ろ手に拘束しそのままうつ伏せに組み伏せた。
「何を誤解している?」
「くそ!離せ!逆賊が!」
『だから何を誤解している?』とプレスがいう前に…。
「お止めください!」
森の奥から声が掛かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます