第20話 作戦

 風が吹き抜ける…。ここはカーマインの南。南方に伸びる街道沿いに起伏がありながらも広大な草原が広がっている。

 東側は巨大な東の森と隣接しながら国境となる大河ミネルバまで広がり、西側はいくつかの森や街に続いているが魔物が出るため草原を横断するものは少なかった。


 相手に悟られないため、ちょっとした丘の街側に姿を潜め集まった冒険者たち五十人は斥候の情報を待っていた。


「みんな!聞いてくれ!頼みがある!」


 先刻、ギルドにおいてプレスがこう言って皆を集めた。彼らはあの時プレスが話したを実行するためここに息をひそめている。


「お待たせしました。ギルドでの報告の裏を取りました。ここから南方に二千メトル程でしょうか…。大量に魔物が集まっています。こちらに向かって移動中。明らかに何者かに統率されている模様です」


 斥候による報告にブルネットの髪を風になびかせながら美しい女性が頷く。カーマインの街において最強のパーティと言われる『龍の大剣』でリーダーを務めるA級冒険者のフレイアであった。


「よし。では我々が移動を開始する。接敵はここから千メトル南方を予定。それなら撤退戦を行っても街に被害を与えないで決着を付けれるはずだ」


 冒険者たちは丘を登るため移動を開始する。


「しかしよ…。本当にそこまであいつを信用できるのか…?」


 カーマインの街のA級冒険者のアーバンである。プレスの力は投げ飛ばされた自分が身を持って体験しているが、流石にリッチの最上位種であるダークリッチに勝てるかには半信半疑であった。


「今更何を言うアーバン。貴様もギルドで納得したはずだ。それにプレスが戦わないのであればお前が戦うやるのか?どのみちここで討伐できなければカーマンの街は滅ぶ!分かっているだろうが!……ただ、お前の思いも分からんではないがな……」


 そのようにフレイアに言われたアーバンは頷くしかなかった。彼にとってみれば悔しい…。A級冒険者である自分は街の最高戦力であり英雄になれる存在の筈、しかし明らかに格上の相手に何もできない自分がそこにいたのだ。そしてこれはフレイアやここに集まった他の冒険者も例外ではない。冒険者たちは自分の無力さを実感しながらも、街のために自分ができることの全てを行う覚悟で集まっていた。そのがプレスの頼みであるであった。


 魔物達の正面から冒険者達が攻撃を仕掛ける。時間をかけて対応している間、後方に陣取ったダークリッチの周囲は手薄になるはず。その側面をプレスが叩く。もしもダークリッチも前線に顔を出すようであれば、撤退戦として後方に下がりながらプレスが後方からダークリッチへ仕掛ける時間を稼ぐ。西の村方面へと続く街道にはカーマインの街を経由せずに南へと向かうための道があることを知ったプレスの作戦であった。


 この作戦のため『龍の大剣』やアーバンのように強力な攻撃力を持つ者以外にも盾持ちや防御魔法の使い手が多く編成された。


 プレスは西側から回り込むため移動を開始しているはずだ。


 ただし、時間もなく訓練を積んだ軍隊や騎士団ではないため『細かいところは行き当たりばったり』であることは全員が認識していた。


 そしてちょっとした丘を登り切った冒険者達の前方には魔物の群れが確認できた。大小数百といったところだろうか…。あまり強力な魔物はいないようだが数が多かった。風に乗りあちら側から鬨の声が上がったのが冒険者達の耳に届いた。


「何度も言うがよく聞け!これから前進し接敵する。しかし我々の動きは陽動だ!盾持ちを前にして防御結界を作り防衛しながら時間を稼ぐ!攻撃に気を取られて魔力やスタミナを消費しすぎるな!」


 フレイアが檄を飛ばし盾持ちの冒険者が前衛を固めて前進する。


「始まるな…」

「さて…。どうなるか…」


 口々に呟きながら冒険者たちは魔物の群れとの距離を縮め…。そして遂に戦いの幕が上がるのであった。



 一方その頃……。


 冒険者達が魔物との距離を縮めているまさにその時、プレスは既に気配を断ち、草原の起伏に身を隠しながら魔物の群れの様子を伺っていた。そして戦いの幕が上がる。冒険者達と魔物の群れが衝突する姿を見ながらプレスはダークリッチの姿を探した。


『見つけたぞ…!』


 心の中で呟いていた…。

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