第18話 脅威の誤算と冒険者の挑発
「おい!汚い声で喚いているアンデッドの出来損ない!」
冒険者達は声のした方へ一斉に顔を向ける。カウンターから立ち上がったプレストンであった。プレスは平然としながら窓辺に陣取っていた鴉を見据える。
「それがお前の使い魔だろう?魔力回路を繋げるとは、アンデッドの出来損ないにしては器用なことをする…」
「ほっほっほっほ!なんとも威勢のいいお言葉ですね?あなたも冒険者ですか?」
「ギルドのカウンターにいるんだ!それ以外に何がある?出来損ない?」
プレスは鋭い声を発しているものの特に緊張した様子すら感じさせていない。周りの冒険者たちは平然としているプレスに唖然としていた。
「この私の種族名を聞き、またグレイトドラゴンのドラゴンゾンビにこれから蹂躙されると分かっていてその態度…。余裕というですか?それとも頭がおかしいのですか?」
「はははは。いやいや、失礼。出来損ないのアンデッドが余りにも自慢げに話しているものだから面白くってね…。つい会話に参加したいと思ったんだよ」
「…何が面白いと…?」
さすがに先ほどと異なり言葉に怒気が混じり始めるダークリッチ。
「いやー。西の城門にドラゴンゾンビが見えるってのが面白くって面白くって…。くっくっくっくっく…。最高傑作か…。至高の逸品って…。それはそれは…。あははははははは…」
とうとうプレスが声を挙げて笑い始める。一体どういうことなのか…。カウンターにいた受付嬢が心配になり何とか口を開いた。
「あのう、プレスさん。何がそんなに…」
その言葉は怒声によって遮られた。
「貴様!!何が可笑しい!!この私を愚弄する気か?ゴミ同然の冒険者風情が!」
既に最初の人を喰ったような態度はそこにはなかった。
「だって…だって…」
まだ笑いを堪えられないプレス。
「死にたいのか?我がインペリアルドラゴンゾンビは瘴気の嵐を起こすことが出来る。その瘴気でこの街を飲み込み、貴様ら全員をアンデッドとして飼ってやるわ!死にたくても未来永劫奴隷のようにこき使ってくれる!!さあインペリアルドラゴンゾンビよ!瘴気の嵐でカーマインの街を覆うのだ!!」
「おい!まずいぞ!?」
「どうすんだ!」
口々に冒険者が叫ぶ中、プレスは思いっきり叫んでいた。
「やれるもんならやってみろ!!生きてもいない!死ぬこともできない!輪廻の輪から外れた哀れな生物の出来損ない風情が!!偉そうにするなよ!!」
その気合に周囲の冒険者も動きを止めた。
「この人間風情が!!せいぜい後悔すればよい!!」
全員の頭に怒号が響き渡る。もう間に合わないか…。ギルド内の全員が覚悟を決めたのだった。目をぎゅっと閉じる。しかし…。
………。
十秒…、二十秒…、何も起こらない。
ぱちぱちぱち…。誰かが手を叩いている。覚悟を決めていた冒険者たちはゆっくりと目を開いた。
「はははははは。『せいぜい後悔すればよい!!』。いい口上だった。あんたの言葉にすると『スバラシイですよ』ってところだろうか…。アンデッドなんか辞めて舞台役者になったら受けるんじゃないか?」
「な、何故だ!?何故、嵐が起きんのだ!?ド、ドラゴンは?インペリアルドラゴンゾンビはどこだ!?」
今更ながらに魔力反応がないことに気づいたのか狼狽えた声が冒険者達の頭に響く。
「笑っていたのは挑発するためさ…。あんな奴にいい顔はされてくないだろう?」
プレスは固まっていた受付嬢に微笑みかける。しかし放心状態の受付嬢はどう答えていいものか分からず固まったままだった。
「ああ!それと言い忘れていた…。お前のインペリアルドラゴンゾンビってこれかな?」
プレスは懐のマジックボックスから平然と魔石を一つ取り出す。それは禍々しい魔力を放つ規格外に巨大な魔石だった。
「そ、それは!?」
頭へ響く声に既に余裕は感じられない。
「でっかいドラゴンゾンビから取り出した魔石さ。これは俺が貰っておこう。いい使い道があるからな…」
「き、貴様!それは我が最高傑作に使用した最高の魔石ではないか!?何故それを…?それを貴様が持っている?」
「斃したからに決まっているだろう?」
プレスが不敵に笑う。
「「「!!!」」」
頭の声の主もギルドに集まっていた冒険者も完全に絶句している。プレスは構わずに声をかけた。
「さて…。ここまでのことをしておいて黙って還れると思うなよ!討伐してやるから待っていろ!この出来損ないが!!」
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