辺境の冒険者は穏やかな旅がしたい
酒と食
第一章 旅する冒険者とカーマインの街
第1話 道に迷った冒険者
「カーマインの街はどっちかな?」
男が尋ねる。冒険者らしい服装とマント。腰には長剣を携えている。細身で一.八メトルほどの背丈。整った顔立ちとこの辺りには珍しい黒い髪と瞳。そして目を引いたのは背負っている大きな木箱である。縦は一.四メトル、幅と奥行きは肩幅ほどはあるだろうか…。荷物が少ないのはマジックボックスを使っているからか…。
「いいわ。金貨一枚で案内してあげる」
「それは高いよ」
男は困ったような表情を浮かべる。そう言いながらも腰に結いた袋をゴソゴソとかき回し一枚の金貨を取り出した。
「はい。これでカーマインの街まで案内をお願いします」
「いいの?」
嬉しそうに受け取る。
「では案内するわ。私の名前はエリー。あなたは?おじさん?」
「待ってくれ!おれはまだ二十一だ。名はプレストン。プレスでいい」
ここはエルニサエル公国の東にある森の中。道に迷ったプレストンはエリーと名乗る女性に会えたことに心の底から感謝していた。
カーマインの街を目指したはいいが、思いっきり迷ってしまったのだ。街道を歩くより森を通過した方が早いと言う話を鵜呑みにしたのが悪かった。
エリーは薬草の採取にカーマインの街から来たと言う。これ幸いと街への案内を頼んだ。
「あたしは十五だからね。あたしから見たらおじさんに見えるよ。おじさん♪」
「ぐぬぬ」
「こっちだよ」
そんなやりとりをしながら森を進む。
「おじさんはお人好しなの?道案内に金貨一枚でなんて…」
金貨一枚あれば贅沢しなければ家族が三ヶ月は暮らせる。道案内の代金としては破格と言えた。
「だからおじさんじゃないって…。金貨はそれで街まで案内してくれるんだろう?それならそれでいいさ」
「ふーん」
さらに一刻ほど歩いただろうか…。
「エリー。あとどれくらいかな?」
プレスが尋ねる。エリーは少し距離をとって振り向いた。
「ごめんね…。おじさん」
「よくやったエリー!」
野太い声がかかる。
エリーが離れ、代わりに男達がプレスを取り囲む。どこをどう見ても野盗である。
「エリー?これは一体?」
プレスはちょっと困った表情を浮かべる。
「お前はエリーに担がれたのさ。早いところ有り金をだしな!面倒をかけるなよ!」
「それは困るよ…」
後退りするプレス。武器を構える野盗達。
するとプレスは囲みの隙間を狙って駆け出す。立ち塞がった野盗の一人が武器を振るう。
「えっ?」
男が声を上げた。プレスがひょいっと攻撃を躱したのである。男の傍をすり抜けようとするプレスに向かって周囲から攻撃が繰り出されるがそれらを全て躱すプレス。
遂には包囲網を突破し、森の中へと消えて行った。
プレスの身のこなしに野盗達は夢でも見ているかのような表情で某然としていた。
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