第三一話

 ラッセルとカイルは城へと到着した。急いで議会の行われる部屋へ向かう。


今日は、領土の問題や税金の見直しなど、議題は山ほどあった。各領地を収める公爵家などの代表が顔を揃えている。

シーラがおかしくなったと分かった時点で我こそが主導権を握ると、野心を剥き出しにする者がシーラを支援する一派から、出て来たのである。

それと同時に、悪い事は続くもので陛下が倒れたのだ。一命は取り留めたが、予断は許されない状況だ。ラッセルは

「こんな時に父が.....」自分がしっかりしなくては。と思い議会に出席する。


議会も終わりに近付いて来ると、

「ラッセル王子宜しいですか」と一人の大臣が発言を求める。名をエドワード・バリ・ドットと言った。エドワードは現王の弟で、王家の次に力のある公爵家である。

「ああ、何だ」

「ラッセル王子は、婚約されたとの事ですが、聞いた所、街のパン屋の娘だとか。それは本当なのですか?」

「確かに、半分は本当だ。だがベル伯爵のれっきとした娘だ。何も問題無いだろう」

「問題無い訳ないではないですかっ」


ラッセルは内心焦った。もう少し自分の一派を増やし固めてから、婚約の発表をしようと思ったのだが、もう情報は流れていたのだ。

エドワードが

「ベル家と言えば、この間、夫殺害と、娘を虐待したとかで、その母親が処刑されたとも聞きましたが」

大臣達がザワザワとし始める。

「あのベル家の娘か....王子は何故そんな娘を...」

エドワードはにやっとすると

「皆さんに、この婚約について多数決を取りたい。どうでしょうか?ラッセル王子」

今は、少し足りないと言った所か。ここで断ると皆の印象も悪くなる。少し考え

「今ではないとダメか?」

「別に宜しいですが、その変わり私の娘も婚約候補に入れて欲しいのです。それで後にラッセル王子の婚約者殿と私の娘を多数決で決めるのはどうでしょうか?」

ラッセルは、愛していないルシアとの結婚は無理だと。断りたいが、自分の力が無い事を恨む。今は従うしか選択肢が無い。

「ああ、本位では無いが従うしか無さそうだな」

エドワードは笑いながら

「ルシア入って来なさい」

と言うと、いつの間にか待機していたルシアが部屋へ入って来る。皆から

「なんと、お綺麗なお嬢様なのでしょう」と声があがる。ルシアは、にこっと笑うと

「ラッセル王子、お久し振りでございます。私はラッセル王子の為に精一杯尽くすつもりですわ。ふつつかものですが、宜しくお願い致します」ともう結婚してるかの様な挨拶をする。周りからは

「ルシア様で間違いないでしょう」などの話し声が聞こえる。


「ああ、久しぶりだな。特には頑張らなくとも良い」

「まあ、恥ずかしいがらなくても良いのですよ」と全く悪びれずに言ってくる。


ラッセルは、ルシアが昔から好きでは無かった。いつもベタベタとしてきては何かあるとすぐに父親に言い付け、そして、何よりも嫌だったのは、使用人に対しての態度も酷いものだった。

「私に触れたわね、汚い。今度私に触れたらお父様に言い付けてクビにしてやるから」

ラッセルは子供ながらに、ルシアの醜い性格が大嫌いだった。


「ルシアは相変わらずだな.....」

「ええ、もちろんです。ラッセル王子への気持ちは昔から変わりません」と微笑む。

「もう、いいだろう。下がれ」と言うとルシアは

「また後程.....」と言って部屋を出て行った。


エドワードは

「家の娘も、綺麗になりましたでしょう?ラッセル王子」

「ああ、大きくなったな」だがサラとは比べものにはならない。サラは容姿だけが綺麗では無いんだ。と言いたいのをぐっと堪える。

「では、ラッセル王子、娘を宜しくお願い致します」

と言うと、議会も終わり、皆が部屋から出て行く。


カイルがラッセルの側に来て

「まずい事になりましたね。これからどういたしましょう」

「俺がルシアを選ぶ訳は無いのだが、もっと力を付けて俺だけでやれるという信用を、周りから得なくてはならない。このままだとサラの婚約すら危うくなってしまう」

「ええそうですね。まずは、ラッセル王子の味方を付けなくてなりません」

「明日から、各領土に出向き一人一人と対話して信用をつけるぞ。今は一人でも多くの味方が欲しい」

「ええ私もお供します。サラ様にはこの事をお話しされますか?」

「いや、サラの事だ。この事を話せば、俺に迷惑がかかると自ら身を引くと言い出すに決まってる。俺はサラ以外妻にする気は無い。だから、少しの間会えなくなるが、心配はかけられない」

「そうですね。サラ様は誰よりも優しいお方です。私もラッセル王子にはサラ様以外、考えられません」

「サラの為にも今が、頑張り時だ」

「ええ。そうですね。ラッセル王子」


その頃サラは何も知らず

「今度いつ会えるんだろ....」と呟くと

ステラが

「いつも一緒にいたからね。でも結婚したら嫌でも毎日一緒だからねっ。ロビン」

「そうだ。サラ、楽しみだな」と言っている。

「そうだね。上手くいくといいね.....」サラは微笑むと少し不安な表情を見せる。

「どうしたんだい?」ステラが心配して尋ねる。

「ううん、なんでも無いっ」

「そうかい。何かあるんだったら、話すんだよ?」

「ありがと。お母さん」と言うと、二階の部屋へ戻るのだった。

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