第二一話

 サラはアンブラに何かを飲まされたが、苦しむ様子も無いので、どうやら毒ではないようだ。

「サラっ」ヒューが呼びかけるが、どこか遠い目をして何も話さない。

「大丈夫か?苦しく無いか?」

「うん......」

「サラ?」

「レオ王子の所へ行かないと.....」

「なんでだ?何故レオが出てくる?」

「分からないの....」

サラも頭が混乱しているようだ。

「行かなくちゃ....」

「サラっ、俺を見ろっ」

サラはヒューを見つめる。が、その瞳は暗く濁りのある瞳だった。

「アンブラめ....いい加減にしてくれっ。何故サラを巻き込むんだっ」

ヒューは、悔しくてその場で叫ぶ。しかしサラは聞こえいるが反応をしない。サラはふらふらと、どこかへ行こうとする。

「どこへ行くんだっ。行くなっ」

ヒューはサラの裾を引っ張り止める。

一瞬だけ、サラが悲しそうな表情を見せる。


突然、教会のドアが開き、レオとグレクが現れる。

「やあ、可愛いサラ。僕と一緒に城に来るよね?」レオがサラに聞く。

「もちろんです。レオ王子....」

サラはレオにしなだれかかる。

「って言う事だから、兄さん。サラは俺が貰うよ。兄さんは、僕が欲しい物全部持ってるじゃないか。サラくらい、くれてもいいでしょ?」

「サラは、物じゃないんだぞっ。レオ考え直せ。そんな事でサラと一緒にいたって虚しくなるだけだぞっ」

「ははは。そんなのは、負け惜しみだよ。呪いは他の人で解いてもらいなよ」

ヒューはサラがレオにべったりしている所を見ている事が出来ず、目をそらす。

「じゃあね、兄さん」

そう言うと、レオとグレクはサラを連れて教会を出て行く。

一人残された、ヒューは、虚しくマリア像を見上げる。

「神なんて、いないのかもな.....」

そう呟くと、教会を後にする。何も考えたく無く、とぼとぼと歩いていると、

「あれっ、ヒューじゃないか。サラはどうしたんだい?」ステラが買い出しに出でいたようで、声をかけられる。

ヒューは、俯きながら返事をしない。その様子を見て、ステラが

「ヒュー、私はね、サラだけを見てたんじゃないんだよ。あんたの事だって、ちゃんと見てるんだ。こっちをお向き」

ヒューがステラを見上げる。

「サラに何かあったんだね?」

わん。っと力無く答える。

「何があったかは、分からない。だけど、今のあんたじゃ、大切なサラは守れないだろうね」

ヒューは返事が出来ないでいる。

「いいかい、ヒュー。どんな事があろうと諦めちゃいけない。無理だと思っても、もがいて、もがきまくるんだよ。そしたらきっと道は開けるもんさ。そうだろ?って犬のあんたに伝わってるかね。私もこうしちゃいられない。ヒュー家へ帰るよっ」

ステラの言葉に、自分の愚かさを後悔し、わんっと大きな声で鳴く。

「元気が戻ったようだね。それでこそ、サラのナイトだ」

ステラとヒューは家へ帰る。

店へ戻ると、グレクが店へ来ていた。ヒューは、ガルルル~と唸る。ステラが

「またあんたかい。サラの事周りの皆から聞いていた奴だろ?」

「さあ、何の事でしょうか?」

「サラに何の恨みがあるってんだい。もうそっとしておいて、おくれよ」

「それは、そこのヒュー君に聞いてはいかがですか?」

「ヒュー?どういう意味だい?」

「私からは、何とも。とにかくですね、サラ様は今レオ王子と一緒にいますので。ご心配なくと伝えに来ました」

「レオ王子と?」

ステラは、誘拐事件でレオ王子の事を良い印象を持っていなかった。

「今二人は仲睦まじくしておりますので、決して邪魔しませんように。ではっ」と言ってグレクは店を出て行く。


ステラは、訳が分からず、ヒューを見つめる。

「サラ、どうしたってんだい....レオ王子?そんな事あるわけないだろ。私はサラの母なんだよ。本人に会わないとダメだ。今日はもう遅いから明日サラを連れ戻すよ」

とヒューに言い、店の奥へ戻る。


ヒューは部屋へ戻り、

「カイル、聞こえるか?」

「ええ、ラッセル王子、今連絡しようとしてた所です。サラ様の事ですよね」

「そうだ。もうそちらに到着したか?」

「はい。これは、どういう事でしょうか?」

「アンブラから薬を飲まされた。それからレオが来てサラを連れていった。今サラはどうしてる?」

「レオ王子の部屋へ入られました」

「カイル、悪いが、何かされないか、見張っててくれ。もし何かあったら、無理やりサラを引き離してくれ」

「かしこまりました。ラッセル王子は?」

「とりあえず、ハンナの所へ行って来る。何かあれば、俺もすぐ向かう」

「はっ、かしこまりました」

そう言うと、ヒューはハンナの館へ向かうのだった。

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