第十九話

 サラとヒューは店へ戻る。

「サラ、お帰り。心配してたけど、なんだか嬉しそうだね」

サラは、ニコニコしてる。

「そうなのっ。とっても嬉しい事があって...」

ヒューは、わんっと鳴いて、サラを引っ張る。

「ううん、何でもないっ」

「別に、サラが元気ならそれでいいよ」

サラとヒューは部屋に戻る。

「サラ、言うなと約束したろ?」

「ごめん。つい、嬉しくて。もう絶対言わない」

「信じてるぞ」


「サラ、少し、店見てて貰っていいかい?」

ステラの呼ぶ声がする。

「はい、お母さん。すぐ行きます」

サラとヒューは店へ降りる。


サラが店番をしていると、グレクが店へ入って来た。

ヒューは立ち上がり、小声で、グレクに話しかける。

「グレク、何故店へ来た。話しがしたい。外へ出ろ」

「まあ、これは、これは」

そう言うと、グレクとヒューは店へ出て路地へ入る。

「あなたが、ラッセル王子でしたか。なんと立派な犬なんでしょう」

「白々しい。用件はなんだ。目的は俺か?」

「いいえ、私はパンを買いに来ただけですよ?」

「なんだとっ。そんなはずないだろっ!サラに何かしてみろ。噛み殺してやるからな」

「穏やかじゃありませんね。ラッセル王子もサラ様に夢中ですか」

「ラッセル王子も?どういう事だっ!」

「さあ、私からは詳しい事は、言えません。レオ王子に聞いてみたらいかがですか?それではこれにて、失礼致します」

グレクは含みのある言いかたをして、帰っていった。ヒューは店へ戻ると、考え込む。


レオがサラを?法廷でか....確かにあの時のサラは真っ直ぐに強い瞳をして、髪も短く切りとても美しかった。まさか、レオもサラを好きになるとは....好きになる事自体は、自由だ。しかし、レオの歪んだ性格から何をするか分からない。

ラッセルは、深いため息をつく。


グレクが城へ戻りレオの部屋を訪れる。

「それで、グレク、サラの様子はどうだった?」

「元気そうにしていましたよ。レオ王子も案外奥手でいらっしゃいますね」

「バカな事を言うな。そんなに簡単行くわけがないだろう」

すると、煙と共にアンブラが現れる。

「レオ王子、あの娘に惚れちまったのかい?」

「う、うるさいっ」

「せっかく、いいもの持って来てやったのにね。要らないって言うなら捨てちまうけどね」

「早くそれを言えっ。何を、持ってきたんだ」

「惚れ薬さ。これを飲ませれば、あんたの事を好きになるはずだよ」

「本当だろうな?今度こそ、失敗しないだろうな」

「失敗してるのは、あんたじゃないか」

「だまれっ、アンブラ」

「はい、はい。確かに渡したからね」

と言ってアンブラは姿を消した。

「惚れ薬か....これで今度こそ兄さんに勝てる」


レオは昔を思い出す。レオの母シーラは、

「レオ、ラッセル王子に負けるのではありませんよ。私が何の為にあなたを生んだか分からなくなるでしょ。あなたは、王になるのよ」

レオは

「はい。分かりました。お母様」と答える。

レオは小さい頃から、ラッセル王子には負けるなと、言われ続け、物のような扱いを受けてきた。本当は、王位継承なんて興味も無かった。ただ、お母様が、僕に笑顔を向けてくれるだけで良かった。

「レオ、また剣でラッセル王子に敵わなかったんですってね。どうしてあなたは...もういいわ」

「お母様っ、次は頑張るからっ」と言ってシーラの腕を掴む。

「離しなさいっ」と言って、レオを突飛ばす。

レオは、泣くのを我慢して、唇を噛みしめる。シーラはレオの事を見もせず、部屋から出て行ってしまう。

「僕は、お母様から誉めてもらいだけなのに...」

それから、ラッセルの食事に度々毒が盛られようになる。侍女達からは

「絶対、シーラ様よね、レオ王子も可哀想だわ。あんな人がお母さんなんて。それにラッセル王子に敵うはずもないのにね」

レオはいつも下を向き、誰かの視線を気にするようになる。しかし、レオは、ラッセルの事が嫌いではなかった。唯一笑顔を向けてくれたのは兄さんだから。剣の稽古の時

「レオ、まだまだだなっ。だけど腕はいいぞ」

と言って、ラッセルはレオの頭を撫でる。

「兄さん、僕頑張るよ」

「お互いな」と言ってレオに微笑むを向ける。

しかし、それを見ていたシーラが

「レオ、ラッセル王子と話す事はやめなさい」と言って、レオをラッセルから遠ざけるようにする。シーラは、

「レオ、ラッセル王子はね、あなたの事を邪魔でしょうがないのよ」と洗脳する。

小さなレオは、何が本当か分からなくなり、次第にラッセルを遠ざけ、憎むようになる。そして「兄さんさえいなくなれば...」と思うようになっていった。


レオは、嫌な記憶を封印するかのように

「サラは、必ず俺のものにする.....」と呟いたのだった。

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