第24話 剣術決闘
「エドガー先生、私と剣術で決闘よ!」
生徒たちの剣術訓練を監督していたエドガー。
そこにルイーズが、木剣を携えて勝負を申し込んできた。
彼女の表情は真剣そのもので、単なる遊びではないことがひしひしと伝わってくる。
エドガーはふと、授業初日に偶発的に女子更衣室に入ってしまい、ルイーズに怒られたときのことを思い出した。
あの時からなんだかんだいいつつも、彼女と行動をともにすることが多くなったのだが……
「えっと……俺、今日は君に悪いことしたかな?」
「いえ……前の決闘では負けちゃったから、次こそはあなたに勝ちたいの。それに、あなたとなら本気で打ち合えると思ってね」
「──フッ……そうか。そういうことなら、此度の挑戦を受諾する」
エドガーはカッコいいポーズとセリフを決め、木剣を構える。
一方ルイーズはそんな彼にツッコミを入れることなく、木剣の切っ先を彼に向けた。
いつもなら「頭大丈夫?」などと心配してくれるが、今日は随分と真剣だ。
エドガーはルイーズに対し、何故か寂しく思った。
「おっ、なんだなんだ!?」
「先生とルイーズ様が決闘だって!?」
教え子たちが野次馬のように押し寄せ、エドガーとルイーズに応援の言葉を投げかけている。
その中に、「はいはいー」と挙手する者がいた。
「あのー、わたしが審判しましょうかー?」
「ありがとう、ベアトリス。よろしく頼む」
「はーい」
ベアトリスはエドガーとルイーズの間に入る。
そして、思わず気が抜けそうな笑顔と声で、決闘の合図を下した。
「殴る・蹴る・掴むなどの身体接触、及び魔術の使用は禁止でーす。始めー」
エドガーは先手をルイーズに譲る。
しかし彼女は一歩も動かない。
──なるほど、前回は先に攻撃して負けたから、今度はカウンターを狙うつもりだな。
エドガーはルイーズの策に敬意を払いつつ、大きく息を吸う。
瞬時に間合いを詰め、ルイーズの胴に向けて木剣を振るう。
「──は、速いっ!」
ルイーズはエドガーの初撃を防いだが、驚きの声をあげている。
袈裟斬り、燕返し、垂直斬り──
エドガーは攻撃を仕掛けるが、すべての技をルイーズに凌がれる。
「この俺の攻撃を受け止めるとは、君は相当鍛錬を積んできたのだな。《王家の血を継ぎし光の巫女》よ!」
「ええ……そうよ! 子供の頃から、私は女王となるべく厳しく育てられた! だから先生、あなたには絶対に負けない!」
ルイーズは下段の構えを取り、様子をうかがっているようだ。
エドガーは彼女の頭部に隙があると睨み、木剣を上段に構えて一気に振り下ろす。
「甘いわ!」
ルイーズは素早い動きで、木剣を水平に薙ぐ。
狙いは恐らく、エドガーの胴。
彼は上段に構えたせいで、胴が隙だらけとなっていたのだ。
だが歴戦者エドガーは、それすらも想定内だった。
バックステップでルイーズの剣をかわし、再び地面を強く踏みつける。
エドガーは前へ踏み出し、ルイーズの兜に向けて木剣を叩きつける。
「ぐっ──!? あ……」
「勝者、エドガーせんせー!」
ルイーズは頭を押さえながら、悔しそうに膝をつく。
ベアトリスの勝利宣言により、教え子たちは一斉に湧き上がった。
「なん……だと……!? 先生、強すぎだろ……!」
「今朝のオオカミ戦で、ある程度は分かっていたが……間近で見ると圧倒されるな…」
教え子たちは皆一様に、エドガーの強さに驚いている。
エドガーはルイーズに回復魔術を施し声をかけた。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとう……でも、また負けちゃった……」
「気にしないでくれ。今日もいい試合だった」
「そう……次は絶対に……勝つわ……!」
ルイーズは決意の眼差しとともに、自力で立ち上がる。
彼女の赤い瞳は潤んでいて強がっているようにも見えたが、エドガーは何も言わない。
◇ ◇ ◇
「今日の訓練はこれで終わりだ」
「ありがとうございました!」
夕方。
エドガーは剣術の訓練を切り上げた。
これから食堂で夕食を取ることとなる。
が、エドガーはルイーズに呼び止められた。
「エドガー先生、ちょっと話したいことがあるの」
「分かった」
ルイーズがどこかへ歩いていくので、エドガーはそれを追う。
恐らく、誰にも聞かれたくない打ち明け話でもするつもりなのだろう。
しばらく歩き、合宿所から少し離れた茂みの中でルイーズは立ち止まった。
とても申し訳無さそうな表情をしながら、彼女は頭を下げる。
「エドガー先生、あなたの経歴を《設定》だってバカにしてごめんなさい……今朝のオオカミとの戦いといい、さっきの決闘といい、あれは実戦経験があってこそだわ」
「なんだそんなことか。謝らなくていい」
「いいの……? 怒らないの……?」
「ああ。俺は正体を隠すために、あえて《設定》として自分の経歴を誇張したんだ。むしろ、ルイーズが《設定》扱いしてくれてこっちは助かってた──ああ、なるほど。今日は俺のカッコいいセリフに反応しなかったのは、罪悪感があったからか」
「カッコいいって……それ自分で言っちゃうんだ……あはは」
ルイーズはほんの少しだけ失笑している様子だった。
やはり彼女はこうでなくてはと、エドガーは思う。
「今、俺と君は仲がいい。そうなったきっかけは俺がボケをやってたから、そして君がツッコんでくれたからなんだよ」
「奇遇ね。同じことを私も思ってた」
「だからこれからも遠慮なく、俺の言動をツッコんで欲しい。『異端審問官』の件も含めて、な。俺は本気で君を怒ったり、嫌ったりはしないから」
ルイーズはエドガーの言葉を聞いて、安心している様子だった。
満面の笑みで、彼女は応える。
「分かった。あなたの正体を隠し通すためにも、仲良くなるためにも、これまで通りツッコんであげるわ。覚悟しておくことね……ふふ」
「ああ、それでいい」
また少しだけ、ルイーズと仲良くなれそうだ。
エドガーはそう思いながら、彼女と二人で合宿所に戻った。
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