GAME
混沌加速装置
『おかねもちのオニ』 さく:ぷりんちゃん
むかしむかし ではなく、げんだいの あるところに、おかねもちの オニが、おおきな おやしきに ひとりぼっちで すんでいました。
オニは おかねを いっぱいもって いますが、ともだちは ひとりも いません。
オニは 「どうすれば ともだちが できるのかな?」と、かんがえました。
「うーん、そうだ。みんなで ゲームをしたら どうだろう?」
でも、ゲームをするには、みんなを よばなければ なりません。
「そうだ。みんなに てがみを だそう」
オニは てがみを かいているうちに、しんぱいに なってきました。
「みんな ぼくのこと しらないけど、きてくれるかな?」
オニが しんぱいするのも もっともです。
「よし、いいことを おもいついたぞ! きたひとには ほしいものを なんでも ひとつだけ プレゼントしよう」
オニは プレゼントのことを てがみに かくと、ニッコリと うれしそうに わらいました。
「これで きっと みんな きてくれるぞ」
オニは みんなのために いろいろな じゅんびを することにしました。
「まずは、あたらしい へやを よういしよう」
オニは おかねを つかって、あたらしく おおきな へやを つくらせました。
「これで きっと みんな よろこんでくれるぞ」
さて、つぎは どうするのでしょう?
「つぎは、ごちそうを よういしなくっちゃ」
オニは コックに たのんで、ごうかな りょうりを たくさん つくらせました。
「これで きっと みんな まんぞくしてくれるぞ」
オニは かんがえるのが、だんだんと たのしくなってきました。
「そうだ。ごちそうには おいしい のみものが なくっちゃダメだ」
オニは インターネットで、いろいろな のみものを ちゅうもんしました。
「これで きっと みんな のどが かわいても だいじょうぶだぞ」
オニは ほかに なにがあったら みんなが たのしんでくれるか かんがえました。
「そうだ。どんな ゲームにするか かんがえなくっちゃ。なにか いいかんがえは ないものかなあ?」
オニが テレビを つけると、マラソンを しているひとたちと、おうえんを しているひとたちが うつりました。
「うーん、マラソンは ゲームじゃあないしなあ」
オニが チャンネルを かえると、こんどは ケンカを しているひとたちが うつりました。
「あー、やだやだ! ケンカなんて こわいし いたいから いやだよお」
オニは こわい かおをして いますが、ほんとうは とても こわがりで、いつも しんぱいばかりしている、やさしい オニなのです。
オニは 「こわい、こわい」 といって、また チャンネルを かえました。
こんどは よこに ならんだ ひとたちが、もじを かいた かみを みせあって、わらっているのが テレビに うつりました。
どうやら みんなで おもしろいことを かみに かいて、だれが いちばん おもしろいかを きそいあって いるようです。
「みんな わらっているし、これは たのしそうだぞ。よし、みんなには このゲームをして あそんでもらおう」
オニが テレビを みていると、かおを みずでっぽうで うたれているひとが うつりました。
「どうして このひとは、かおを みずで
モーターの回転音がするなり、両腕を背後へ引っ張られるのを感じた
椅子の
「な、まだ、時間じゃッ!」
みちるは化粧の溶けた顔を上げ、何もない天井の隅へ向かって叫んだ。手元にあったキーボードが反転してテーブルの内側へと収納され、つづいてテーブル自体も壁のなかへと吸い込まれるように納まり、正面のモニターに映しだされていた執筆途中の作品も消えて、室内の壁と同様の真っ白な画面へと変わる。
そこに何もないのがわかっていながらも、空気をタイピングするかのような小刻みな震えが止まらない。
機械のモーター音は家具のない六畳間ほどの無機質な部屋に鳴り響きつづけ、みちるを縛りつけたままの椅子が床を滑って中央へと移動する。
正面の壁がシースルーとなり、中世の貴族を
「さあ、真那加みちるさん。お時間が来ましたよぉ」
嬉しそうな抑揚の、ヴォイスチェンジャーで変えられた機械的な音声が小部屋に響く。
「評価ッ! 作品の、わたしの作品の、評価はッ!」
「残念ながら、どちらにしてもダメですねぇ。
おかめの右隣、数歩後ろに控えている
「なん、どちらにしてもって、なんでよッ! げん、減点方式だって、あんた、あんた、言ってたじゃないッ!」
耳を
みちるの右斜め前方の天井がスライドして開き、白いロボットアームがゆっくりと降りてきた。先端には手の代わりに、無数の穴が空いた、
円筒状の部分がアームから直角に折れ、長方形の開口部と、その奥の錆びた分厚い十枚のブレードが
「ど、どっちにしてもってなん」
「
「じ、じじ、時間内に、か、書く、書けば」
みちるの声は震えに加えて上擦っており、おかしなイントネーションとなっていたが、おかめは特に気にした様子もなく「それだけじゃないでしょう?」と理解の
「それとも、わたくしが気づかないとでも思ったんですかまったくジョーダンじゃああーりませんッよ!」とおかめが一息に捲し立てた。
固定された右手へと近づいてくる開口部を凝視しながら、みちるは「やめ、やめ」と傷のついたCDのように、同じ言葉を繰り返しては頭を
ギターの音が激しいリフからチョーキングに変わり、音程を引き上げたり引き下げたりするようなその不穏な音調を耳にしたみちるは、現実と非現実が脳内でミキサーにかけられてゴチャ混ぜになるような思いに駆られ、おかめと禿頭が見ているにも関わらず、小水を垂れ流して下着とスカートを濡らしはじめていた。
「いやああぁぁ!」
「おやおや、年頃の娘が、なんともはしたない。わたくしにそっちの趣味はないんですけどねぇ」
ふたたびリフへとギターの音が戻り、力が入って白くなっているみちるの握り拳に、歯医者が扱うドリルのような音を立てながら、高速で回転する十枚のブレードが肉薄する。
ふうふうと荒い息を吐いていたみちるは、ブレードが拳に触れる
「だって、いらないでしょう? おもしろい作品が書けない指なんて。そうだろう、鱒丘?」
己の右手がミンチになっていく感覚のなか、こんなリアルな夢は初めてだと思ったところで、いきなりコンセントを抜いたテレビのように、みちるの意識はプツリと途絶えた。
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