空と風のまにまに
吉高来良
プロローグ
振り返れば
人生は辛いことばかりだ。
良いことなんて、ちっともない。
幼い頃、なりたかったパイロットの夢は、歳を重ねるごとに突きつけられた現実を前に諦めた。
そこそこの大学へ進学して、そこそこの企業に就職したが、三十九歳の誕生日を一週間後に控えた日にリストラされてしまった。
三年前から付き合っていた彼女とは、婚約までこぎ着けたものの、リストラを機に破棄されてしまった。
お先真っ暗って、こういうことを言うんだろうな。
そんな俺を癒やしてくれたのがオートバイだった。
信号のない田舎道をのんびり流したり、潮風を感じながら海岸線を走ったり、ワイディングロードてんこ盛りの峠を攻めたり。
自分が風になったみたいで、どんな嫌なことでも忘れられた。
再就職先を探すという現実から逃げるように、その日も愛車に乗って出かけた。
日曜日のまだ陽が昇らない時間帯。
渋滞必至な幹線道路も、まるで世界に一人取り残されたように、車一台通っていない。
日中なら倍以上時間がかかる道程も半分で済む。
ライダーが早起きなのは、これに尽きる。
そうして訪れた隣県の有名な山の休憩所で、柔らかな朝日を浴びながら見下ろす景色を目に焼き付け、明日からの活力にするのだ。
意気揚々と帰路に就く俺だったが、事故ってしまった。
緩やかな左カーブを抜けると直線が続き、右側は景色の良い崖が広がる道だった。
俺は、曲がりきったところで少しだけアクセルを開けた。
左側の森から飛び出したイノシシらしき動物を慌てて避けようとして、崖から落ちてしまった。
空中に放り出され、追いかけてくるように落ちてくる愛車を見て、すぐに衝撃が来た。
即死だったんだろう。痛みはあまり感じなかった。
悔いの残る人生だったと我ながら思う。
願わくば、来世ではマシな人生を送りたいものだ。
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