錆びた鉄路Ⅱ

 疲れ切った体を運転席に委ねて電車を転がす。

 寝ぼけ眼をこすりつつ前方に意識を向けようと必死にもがくも、あたりは闇黒につつまれてよく見えない。

 ここ数日、乗員の半数はストライキ運動のために無断欠勤をブチかましてくれている。当然、しわ寄せは当たり前に勤務している我々にふりかかってくるのである。

 余計にメトロポリタンの夜が長く感じられる次第だ。そういうわけで、早朝から通しで運転している。

 特に夜間の運転は非常につらいものがある。というのも、これからさしかかる勾配区間には踏切以外での横断が非常に多く、さらにビルの合間を縫うような線形のために見通しが悪いのだ。

 おまけに酔っ払いが敷地内で寝ころぶ始末である。そういう輩に出くわすたびに外へどかさなくてはならない。

 泣きっ面に蜂なのだ。


 さて、噂をすればなんとやらで。

 線路わきに横たわる人の姿が見えたのでブレーキをかけた。幸い、乗客はいなかったのでそのまま線路敷に降りた。

 案の定、路面には人がいた。しかし何か様子が変である。よく目を凝らしてみると、二人が重なっているようであった。

 私は手元にあった信号灯で足元を照らした__


 刹那、私はギョっとした。よく見ると足元から横たわる人らにかけてがあったのである。

 恐るおそる歩み寄っていくとその姿が明らかになった。

 やはり、轢死体であった。そしてこの状況を鑑みるに坂を下る列車に轢かれてしまったのだろうと思われた。

 私はさしあたり終点の停留所へ向かうために、この遺体を敷地の外へやることにした__


 __かくして、私は営業運転を終えた。今日は職員で当直勤務であるので、そのまま隣接の宿舎へと向かう。


 ふと、車庫の方に人の気配がした。深夜の車庫は消灯された電車が立ち並んでおり仄暗い。

 それとなく、そちらの方を気にしながら歩く__

 私は思わず息をのんだ。

 はこちらを気にも留めず、虚ろな目でただひたすらに車両の先端を拭いていたのであった。

 

 「し、所長……なにをしているんですか」

 「なぁにって、見りゃあわかるでしょう?ほらぁ」

 

 虚ろな目で、そしていつになくおどろおどろしい口調で、こちらに目線を向けてくる。ふいに立ち上がると、手に持っていた布切れをこちらに差し向けてきた。

 当然、血に濡れている。


「これ……やったのは所長ですか」


虚ろな目で、口元は笑みをたたえながら、ただ立ち尽くしている。

すると彼はこちらに歩み寄り、私の肩をたたいた。


「まあ、あとは僕が処理しておくから。君はもう帰りなさい」


__そういうわけで、僕は職を失ったのである。

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