第16話 我慢できない

昼食が終わりパラソルの下でのんびり休憩をする。

敏彦は一人で海に行くと走って行ってしまった。元気だな。

女性陣は日焼け止めを塗りなおしている。俺も日焼けでつらい思いをしたくないので念入りに塗る。

「午後も海に浮かんでる?」

よし行くか。

「あー千秋、浮き輪ひっぱって一番深いとこまで連れていって」

恵がそんな事を言い出したので、彩奈に一緒に行くか聞いてみた。しかし彩奈は深い所までは行かず、途中で浮かんで待っていると。

まぁ、怖いだろうな。俺は秋司と桂子さんに彩奈の事を頼んだ。

「んじゃ行ってくる」

恵の浮き輪を引っ張りながら遊泳区域の境界線まで泳ぐ。

「わー、全然足着かないねー」

休憩の為、恵の浮き輪に入れてもらった。

「千秋と浮き輪に入るの久しぶりだね」

「そうだな」

小学校と頃はよく一緒に海に行ってたからな。

「それで、彩奈ちゃんとどうなの?」

「どうって?」

「彩奈ちゃんはわかりやすいから。男子に塩対応の彩奈ちゃんが、千秋だけには優しいもん」

「普通だろ」

そうかなーと恵は疑いの目を向けてくる。

「よし、そろそろ戻ろうか。千秋頑張って引っ張って頂戴」

陸に向かって泳ぎだす。遠くに彩奈が見える。あれ、秋司と桂子は?

ちっと心配になり泳ぐスピードを上げた。恵にも彩奈が一人で浮かんでいて、秋司たちがいない事を伝える。大丈夫かよ。

頑張って泳ぎ、なんとか彩奈の場所までたどり着いた。

「疲れたー。恵はもう自分で泳げるだろ。彩奈、ちょっと休ませて」

彩奈の浮き輪にもぐりこんだ。

「あたしは一度戻ってジュース飲んでくるからね。ごゆっくり~」

恵はバタ足で水しぶきをあげながら戻っていった。

浮き輪の中の2人は午前中と体制が少し違う。午前中は彩奈の背中を抱く形だったが、今は向かい合わせになっている。前と同じように左手で浮き輪につかまり、右手で彩奈を抱いている形だ。

「ごめん、前にきちゃった」

「私は別にいいけど。でもそれじゃ泳げないでしょ」

「休憩だから泳がない。しばらくじっとしてるから」

浮き輪の中では俺の胸と彩奈の胸がおしくらまんじゅうしている。柔らかい感触が最高。……心地よい、と言っておくか。

「秋司たちは?」

「桂子さんがトイレ行きたくなってついて行った」

「そうか、一人で寂しかった?」

「別に。一人でも平気だし。寂しくなんてないし」

「彩奈は寂しくなかったのか。俺は彩奈がいないから寂しかったな」

彩奈の目を見ながら言う。

「恵がいたじゃない」

「あれは俺が運搬要員にされただけだよ」

ふーん、そうなのと楽しそうに彩奈答える。

やっぱこいつ可愛い。めちゃくちゃ可愛い。そのピンクの唇を貪りたい。彩奈の全部が欲しい。

「なぁ、彩奈」

「ん?」

「好き」

逃げられないように、腰に回した手に力を入れ、両目でしっかりと彩奈を見つめる。

そしてピンク色の唇にゆっくりとキスをした。

時間すれば数秒。彩奈は突然の出来事で固まっているようだ。つまりチャンス。

俺は再度キスをした。



顔を上げて彩奈の様子を見る。まだ固まったままだ。

「彩奈?どうした」

「やり直し」

「え?」

「突然でよく覚えてない。だからやり直して下さい」

なんか変な要求がきた。覚えてないって記憶がとんだ?

「安西彩奈さんが好きです」

そして唇を軽く合わせる。と見せかけ、情熱的にキスをする。舌で彩奈の唇を割り、彩奈の舌に絡ませた。

時間にすれば30秒位か。彩奈の目にはうっすら涙が見える。あれ、泣くほど嫌だった?でももう後戻りできない。

「バカ」

「そうかな」

「バカバカ」

「そうだな」

「好きっ」

今度は彩奈から唇を重ねてくる。両手は俺の首を抱え込んでる。もう我慢できない。俺も体全体で彩奈を抱きしめる。

10分位は相手を求めあっただろうか。ちょっと冷静になってきた。

海の中で顔しか水から出てないから、そこまで目立ってないだろう。今度は普通に抱きしめた。

「好きの気持ちがあふれだした」

抱き合ってるので彩奈の顔は見えない。

「私もあふれた」

その後も啄むような軽いキスを何回もする。

「まさかキスのやり直しを要求されるとは思わなかった」

「だって急なキスだったから。不意打ちはよくないと思います」

彩奈の浮き輪を引っ張りながら岸に戻っている。

この30分位の間に色々ありすぎたので、ドリンクでも飲んで一息つこうと思ったからだ。

パラソルに着き椅子に座る。後ろの海の家で買ったコーラを彩奈に渡した。俺も椅子に座ってコーラを飲んだ。

「私まだドキドキしてる」

「ドキドキしてもらえて嬉しいよ。キスしたらグーパンされたなんてシャレにならない」

「好きでもない相手にいきなりキスされたら大声で叫ぶ」

「叫ばれなくてよかった。それでさっきの続きになるんだけどさ。真剣に付き合ってほしい。俺だけの彩奈になってほしい」

彩奈は俺の顔を見てにやりと笑った。

「私も千秋がいい。ずっと一緒にいたい。他の人の千秋じゃなくて、私だけの千秋になってほしい」

俺が手を差し出すと、彩奈も俺を手を握り握手をした。本当はキスでもしたかったけど、さすがにこの人ごみの中では無理だった。


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