死んだ格ゲー主人公なんだが、謎の美女助けちゃって、気づいたらヴァンパイアになってるんだが?
@1-darkmoon
第1話 冥府と現世を繋ぐ波導
ここは賽の河原。
煉獄へ向かうため、三途の川を超える船を待つところだ。
そこで俺は黙々と石を積んでいた。
常に修行していないと気が済まない気性というのもあるが、俺をここへ連れてきた天使の神官に、賽を積むといいことがあると言われたからだ。
最初は、3段、組むだけでも大変だったが、徐々に慣れてきて、今では自分の背丈よりも高い賽を積むことが出来た。
我ながら上出来だな、なんてことを思っていると、突然、空から黄金の屋形船が落ちてきた。
「先週死んだ方は、この賽を目印にお並びください!今からこの渡り船で三途の川を渡ります!なお、波が荒れ狂うので、バランスが崩れないように受付が終わった方から奥まで入ってください!それでは只今から受付を開始します!」
なるほど。賽の河原を積むと一番乗りできるのか。確かに悪くないご褒美だ。
にしても、屋形船が喋りだしたのには驚いたがな。
「俺の名前はショウ・マツザカ。小汚い白い道着に、白のハチマキを愛用する、世間的には、硬派な男。一週間前、謎の組織によって、暗殺された哀れな格闘家だ。今日は、善人が乗れる船が来るって聞いたんだが、俺にその資格はあるか?」
「えー、ショウ・マツザカ様ですね。たった今、確認しました。お乗り頂けるクラスは聖人級です。ぜひ、この船の最深部にお入りください。波もなく快適に過ごせると思いますよ」
「いや、いい。せっかくだからこの景色を見たい」
「そ、それでは、極悪人達と同じエリアになってしまいますが……」
「極悪人達って?」
「えっ……まあ、例えば相手を意味もなく傷つけたりする輩とか」
「好都合だ。早く案内してくれよ」
「はぁ、分かりました。それではテラスへご案内します」
渋々と言った感じで、船の中を案内する屋形船。
「本当にいいんですか?ここは自分の身を守るようなものは何一つないですが」
「大丈夫。俺にはこの拳がある」
俺は風、雷、雹が吹く雨ざらしのテラスで、日課である正拳突き1万回を始めた。磨き抜かれた一発一発が雹を砕き、風を裂く。
しばらく時間が経って、受付によって最後に回された、極悪人達がテラスへなだれ込む。
徐々に狭くなっていく船内であったが、何故かほとんどの人が「アイツやべえ」と言って、俺と反対方向に集まった。
「それでは出発します!なお、極悪人の皆さん!ここから先は、何かに掴まらないと、本気で、振り落とされるので、気をつけてください」
そう言うと、船は動き出した。
まるで、地割れが起こったのかと、見まごうほどの衝撃に、思わず、俺は手すりを掴む。
しかし、反対方向に、集まっていた悪人たちは、咄嗟に掴める手すりが少なく、吹き飛ばされる奴らが沢山いた。
「おい、屋形船!何人か吹き飛ばされてっぞ」
「落ちた方は泳いで来ていただきます。なお、28日以内にたどり着けなかった方は、強制的に地獄へ送られるので頑張ってください」
残酷な現実にパニックになる極悪人達、周りにいる奴ら押し退け、皆が手すりを掴むことに躍起になっていた。
「そこを退け!お前若いんだから泳いでいけるだろ!うわぁぁぁ」
「うるせえ、お前みたいな悪人いなくなったって誰も苦しまねえんだ。さっさと地獄へ、うわあああ」
互いに殴り合い川へ落とされる者。
「お願いです!私には天国で待ってる家族がいるんです」
「黙れやビッチ!ここにそんな善人いるわけねえだろうが」
「いやぁぁぁあ」
弱き者を残酷に川へたたき落とす者。
そんな、地獄のような船内であっても、誰一人、俺にケンカを売るものはいなかった。
そういう意味で、暇になってしまった俺は唯一、隣にいたフードを被った女に話しかける。
「このエリアって極悪人達が大量に乗ってるんだろ?お前はなんの罪を背負ったんだ?」
「自死よ。私はこの人生を自分で終わらせた。その罪でここに居るの」
俺にはその女の顔が暗くてよく見えない。
だが、俺は静かに熱の篭った声から、女の目が死んでいないことは解った。
「その割には人生を諦めきったって、顔つきじゃねえな。俺には解る」
「そう。それじゃ私からも質問。貴方はなんの罪を侵したの?」
「俺か?俺は特に侵してないらしい。むしろ聖人クラスだそうだ」
「じゃあ、なんでここに居るのよ」
「昔、悪人ばかりいる格闘大会に、出たことがある。その時は俺が優勝したんだが、戦った悪人、全員が底知れない強さを持っていた。俺はきっと天国へ行く。その前に俺は、善悪を超えて、この拳を極めた先を見たくなったんだ」
「そう。なら私もここにいる理由を教えてあげる。実はここの曇天の上に天国があるの。そして、天使やその神官が、現世に舞い降りるとき、この曇天から天国の階段、って言う光が差すの。それでね」
「それで?」
「その光が照らす水面に飛び込むと、私たちは幽霊として、現世に戻ることが出来るの。私はそれを狙って、普通の人ルームから、ここに出てきたわ。私はまだ、現世でやらなきゃならないことがあるのよ」
俺はこのフードの女を羨ましく思った。
最後まで泥臭く足掻こうとする姿勢に、魂が燃えだしたのだ。
「それって、俺に手伝えることはないか」
俺がこの言葉を言おうとした時、槍のように降る雷とは違う、高貴な光が差した。
「見ろ!天国の階段だ!でもこの船からかなり距離がある。次のを来るのを待って」
「待てない。ここを逃したら次があるとは限らない!」
確固たる決意を持って、フードの女は川へ飛び込んだ。
しかし思い虚しく、無情にも波に煽られて、光へ思うように近づけないばかりか、荒波に飲まれて溺れかけている。
「くっ、荒波に飲まれているならば、波導暁光拳を使わざるを得ない。おい!今、俺がいる場所から、あの光との通り道にいるヤツ、全員伏せろ!当たって死んでも知らねえぞ。」
俺はありったけの闘気を両手の拳の中に込めて、光に向かって撃った。
「波導暁光拳!でりゃあああ!」
闘気のレーザービームとなった波導暁光拳は、光さす水面に着弾すると、荒れ狂っていた川は大きく陥没し、光を中心に万物を飲み込む渦潮のようになった。
「これで流されるだけで、あの光の下へ行けるようになった。後は、溺れたアイツをあの光にぶち込むだけだ」
俺は渦潮の中へ飛び込んだ。
熱いのか、寒いのか、分からない謎の感覚に自分の身体を任せて、闇雲に光さす方へ向かう。
すると、俺の泳いで行く方向の先に1人の女が見えた。
「おい!息してるか?」
俺が声をかけると、女は驚いたような顔をして振り返る。
「なんでここに居るの!」
「お前が溺れてないか心配だったんだ。だが、大丈夫みたいで良かった。それじゃあ俺は天国に向かうけど、お前も現世で頑張れよ!」
「後ろ!危ない!」
俺は後ろを振り向いた。
その時のことはよく覚えている。
自分の力ではどうにもならないような高い波がやってきて、俺を飲み込んだのだ。
そこから先のことはブラックアウトしてしまって覚えていない。
だが1つ確かなことがあった。
「はぁ、やっと起きた。あんたなんで飛び降りたの?」
「溺れている人を見捨てるのは好きじゃないんだよ」
「あんたねぇ。 普通に船に乗ってれば天国へ行けたのに、そんなチャンス逃して。はぁ、バカね」
「まあ、ガタガタ言うなよ。また幽霊になっただけだろう?」
「そうじゃないのよ。私達は物に触れれるから私達は幽霊にはなってない。それに身体が朽ちていかないからゾンビでもない。そう……成功したのよ!私達なったのよ!」
「何に?」
「転生したのよ!夜の帝王と言われる最強の妖魔、ヴァンパイアにね!」
俺が意識を戻した時、ネオンが煌めく繁華街の片隅で、自分の復活を祝い喜び、踊る女がいた。
フードを脱ぎ捨て、美しく染まった髪を振り乱し、目鼻立ちがスッキリとした顔をクシャクシャにして笑う、赤い瞳の女。
俺はこの女と、地獄へ送られる28日までの間苦楽を共にするのだ。
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