36日目 初本社出社

 コタンはグリフォンの背中で震えていた。

 はるか上空、力強い羽ばたきでテクールトリ市から王都へと一直線に進んでいくグリフォンの背に、コタンは必死にしがみついていた。

 グリフォンの背とはいっても、一人用の鞍がしっかりとグリフォンには装備されているので、鞍の前方両側に突き出ているつかまり棒を握る形なのだが、つかまり棒を握っている手に冷たい風が容赦なく吹き付けるので、コタンは非常につらい思いをした。

 次の本社出勤日には、上着や手袋など、防寒装備をしていかなければ。


 「……君! コタン君! 聞いてる?!」


 コタンの懐に入れた携帯型水晶玉モバイルギアからは、会議の声がわずかに漏れ聞こえている。だが、風の音がものすごいのと、落とさないように懐に入れているのでほとんど会議の音は聞こえなかった。


 「聞こえねーよ、馬鹿!」


 コタンは空中に向かって叫んだ。


 暖かそうなグリフォンのうなじのふわふわの羽の中に何とか頭を入れ込もうとコタンはむなしい努力を続けた。


 本社についたコタンだったが、本社でいつも通りの仕事ができるはずもなく、ウロウロと忙しそうにうろつきまわることでその日一日をやり過ごそうとした。


「コタンさん、これお願いします!」

「はいっ?!」


 本社の女魔法使いアルビオナが、書類の束をもってコタンの前に現れた。


「こちら、社員の求人一覧になります。今は空欄なんですが、この書類の各求人シフトを見て、一覧に書き写してください。こちら、本日最優先でお願いします」

「えっ」


 アルビオナは机に書類をどさっと置くと、どこかへすたすたと去っていった。


「?」


 コタンの頭には様々な疑問が浮かんだ。

 これは、自分がやるべき作業なのか? わざわざ本社に来て? 最優先? 誰からの指示だ?

 〈最優先〉という言葉を聞くとどっと疲れがのしかかってくるような気がする。


 書類の束を手に取り、コタンは帰りのグリフォンのことを考えて憂鬱な気分になった。

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