17日目 スパイ

「あの……、今日はムリエラさんお休みですか?」


 勇気を出して、コタンは上司のアムラトに聞いた。アムラトはにやにやしながら答えた。コタンが思ったより、アムラトはコタンとの心の距離が近いと思っているようだ。


「えーとね、ムリエラさんは調査に出てるよ。たぶん一週間くらいはこっちには来ない。なので、ムリエラさんが担当してたページはコタン君が担当してね。明日王都に提出だから、間に合わせないと」

「調査?」


「詳しくは言えないんだけど、今やってる〈全自動〉とは別の戦争支援魔機構システムを作ることになったの。すでにそれを運用してるほかの会社があるから、ムリエラさんはそこの会社に調査に行ってるんだよね」

「へえ~、仕組みを説明してくれる会社があるんですねえ。自分の会社の商品なのに」

「いや……」


 アムラトは少し言いよどんだが、まあいいかという表情で続けた。


「ムリエラさんはそこの会社に入社して、くわしい内容を調べてくることになった。今日は面接なんだよ」

「えっ」


 コタンは混乱した。ムリエラはこの会社の社員だったはずだが。


「つまり……?」

「言い方は悪いけど、スパイだね。できるだけその魔機構システムの情報を入手して、向こうの会社は退社することになってる。社長指示なんだ」


 言い方も何も、真っ正面から悪いことだ。法律上はどうだかコタンにはわからないが、相手の会社をだますことになるし、技術を盗むことになる。十分信義にもとる行為だろう。


「ムリエラさん、大丈夫でしょうか……」

「社長は大丈夫と言ってる。何かあったら責任をとるとも。あと、ムリエラさんにはお給料2倍になってうれしいでしょう? って言ってたよ」


 その日も〈全自動〉会議は行われ、おのおのがまた修正作業に入っていった。気の滅入る作業だったが、ともかく今日で終わりだと自分に言い聞かせてコタンは作業を続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る