16日目 集中砲火

「ムリエラさん、イイね!」


 会議中に社長の甲高い声が鳴り響いた。ずいぶんご機嫌だ。


「い、いえ、そんなことはないです……」


 コタンの隣に座っている、写本師オペレーターから呪文書作成士デザイナーに昇格したムリエラに、社長が水晶玉越しに話しかけている。

 コタンは複雑な思いでその光景を眺めていた。水晶玉は会議に参加している全人物の顔を丸く切り取って支社の地方ごとに等間隔に並べて表示しているが、発言する人物がいるとその顔をアップにする。社長とムリエラの顔が水晶玉に大きく映し出されていた。


「いやいや、安全装置のページも内容が良く書けてるし、構成もいいよ。こっちが聞いたことをすぐに答えられるのも素晴らしい! みんなも見習ってね! 特に、数字はすぐ答えられるように、みんな常に意識して! これ大事なことだから! 数字を常に意識してね! じゃあムリエラさん、後で新企画についてミーティングするからね! 15時になったら連絡してね!」


 ほめちぎられて、ムリエラはまんざらでもなさそうな表情を浮かべていた。

 何か話しかけた方がいいような気がして、コタンはムリエラに話しかけた。


「すごいですね、ムリエラさん絶好調ですね」

「いえいえ、とんでもないです。ほんとにたまたま知ってたことを聞かれただけだったんで、まぐれなんです……」


 その日、15時を待たずに社長からムリエラ宛に通話が何度もかかってきて、ムリエラは一日中、社長と〈全自動〉ではないプロジェクトのミーティングを続けていた。支社のどこかから「集中砲火……」というつぶやきが聞こえた。


 夕方、コタンの水晶玉に着信があった。


「どうも、本社のザルトータンです。お疲れ様です。今大丈夫ですか?」

「あっ、はっ、はい。大丈夫でございます!」


 本社の総呪術監督グランドディレクターであるザルトータン部長は誰に対しても丁寧な口調だ。それが会社の方針であることはコタンも知っていたが、大したものだと思った。


「すみませんがコタンさん、突然で悪いんですが、今回の王都への業務委託契約で、王都から支払われる金額はご存じですか?」

「えっ? あの、わかんないです……」

「ケイロン金貨3万6千枚です。これは一度共有事項として全社に通知されていますので覚えておいてください。また別日に数字について確認します。それでは失礼します」

「???」


 今のは何だったのか。

 しばらく考えたコタンの頭の中で、甲高い声がよみがえった。


(数字を常に意識してね!)


 抜き打ちで試験を仕掛けられたということか。

 うまく答えられなかった後悔と同時に、会社に疑われたような気がして軽く苛立ちを覚えたコタンだった。

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