11日目 休暇

「王都公認企業となるための条件を達成するため、わが社は週1回の休暇を設定いたしました! これからは週に1日、皆さんにお休みが与えられます」


 水晶玉の中で、会議の進行役である本社女幹部のベーリトが誇らしげに宣言した。

 会議に参加している全社員の中にざわめきが広がる。


「各支社の責任者は各員にそれぞれ休暇の日を設定し、業務が滞りなく遂行されるように計らってください。どのようなシフトで運行するかの計画書は本日17:00までに提出をお願いします」


 コタンが上司のアムラトをみると、無表情で目をつぶっていた。


「休暇だって、すごいですね」

「ちょっとうれしいですよね」


 隣の席のムリエラははしゃいでいるように見えた。

 しかしその直後、その笑顔は消えることになった。


「大変申し訳ないんだけど、写本師オペレーター呪文書作成士デザイナーは休みなしね。これから1週間で王都に提出する企画提案書を作成しないといけないから」

「えっ、会議でそんなこと言ってましたっけ」

「さっき社長から直接通話かあった」


 アムラトの顔はやや辛そうだった。

 全自動ネクロマンシーの魔機構システムはただ王都に渡すだけではなく、提供に向けて色々と準備するものがあるそうなのだ。


魔機構システム本体を作るのもそうなんだけど、それを運用するための呪文書、その呪文書の魔道説明書マニュアルが魔法使い用と一般人用の2通り、本体の魔道説明書マニュアルが魔法使い用と一般人用の2通り、王都に売り込むための案内書と企画提案書、申込書、機能一覧書、誓約書などを用意する必要があるんだよ。各支社の写本師オペレーター呪文書作成士デザイナーは協力して企画提案書を作ることになったんで、頑張って作っていこう」


 コタンには言っている内容がよく理解できなかったが、いつも通り言われたことをやればいい、くらいにしか考えなかった。

 休暇が消滅したのは残念だった。


 ほかの写本師オペレーターがアムラトに聞いた。


「今やってる呪文書の方はどうするんですか?」

「そっちはとりあえず保留で。こっちのプロジェクトが第一優先だからって社長の指示だから」

「来週納品なんですが、いいんですか?」

「社長指示だからしょうがないよ……」


 じゃあ日々のノルマはひとまず無視でいいのかな? コタンはちょっと気楽になった。

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