10日目 プロジェクト開始

 なんと、他の支社では何人か人材が見つかったようだった。

 結局全社員が参加となった〈全自動ミーティング〉で、それぞれの人材の能力や所属が発表されていく。コタンが勤めているテクールトリ支社でも、上司のアムラトが人材会社からそれらしい技術を持った団体を見つけてきていた。


「アムラトさんて、意外と優秀なんですね」

「そうなんですよ。もうこの会社にも10年以上勤めてるらしいですよ」

「ムリエラさんはどのくらいになるんですか?」

「私は1年くらいです。この支社の中では新人の方ですね」


 コタンは会議中、隣の席のムリエラとこそこそと話をしていた。自分の呪像がアップにならない限り、私語を見とがめられることはないだろう。

 ムリエラとの距離が日に日に縮まっていくような気がして、コタンはうれしかった。


「アムラト君、今回はよさそうな人たちを見つけてくれてありがとうね! さっそく条件とかを詰めていきたいからさ、連絡先を教えてくれる? 水晶通話はできる人たち?」

「はい、後で資料をお送りいたします」

「いや、そんなんじゃ遅いのよ! 今連絡するから今! 教えてくれる? 本来だったらもう細かいところは詰めてほしいくらいなんだからさ!」

「はい、かしこまりました」


 水晶玉の社長が突然叫びだし、コタンはその場で縮こまった。手のひらに汗がじわっと出てくる。会議の雰囲気が一気に冷え込んだのが感じられた。


 アムラトから連絡先の情報を得たトート・アモン社長は、別の水晶玉を取り出し、その場で外注先に連絡を始めた。全社員がその場でその光景を見守る。


「どうもお世話になっております! (魔)アマルリックのアモンでございます! この度はご協力いただけるということでね、非常にありがたく思っております。で、早速なんですが、御社はあの、死人占い、なんだっけ、ザルトータン君、なんて言ったっけ」

「ネクティとSIJです」

「ネク、何?」

「ネクティとSIJです」

「そうそう、あー、おたくはネクティは使えます? 今回のプロジェクトがですね、それを使わないとっていう先方の指示なもので! あと、S……」

「SIJです」


 社長の隣には、本社総本部長であると同時に総呪術監督グランドディレクターであるザルトータン部長が座っており、社長に助言をしていた。ザルトータンは社内で唯一、魔法の仕組みを作り出すことができる人材だ。


 話の内容が理解できなかったコタンは隣のムリエラに聞いた。


「ネク何とかってなんです?」

魔機構システムを作る際の、魔法言語ですよ。それで呪文書を書かないと魔法は完成しないんです」

「へえー、そうなんですか!」

「コタンさん、魔法使い志望なんですよね?」


 社長は会議中に外注候補との折衝を行い、全社員はそれを見守り続けた。

 会議は定時まで続いたが結局終わらず、次の日は各支社の社員が折衝を行うことになった。

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