第4話
「私を信じて一緒に逃げてね」
「はい!
ヴァルナ様を信じてついていきます」
アウロラを安心させるために大口をたたきましたが、逃げるあてなどありません。
今国に残っている貴族士族で信頼できる者など皆無です。
心正しい貴族士族は国外の戦場で戦っているので、残された家族は王太子やコヴェントリー侯爵に逆らえないのです。
戦力が残っていないので、眼をつけられたら何をされるかわからないのです。
彼らに迷惑をかけるわけにはいきません。
私はアウロラを御姫様抱っこして、脚力に任せて跳びました。
その飛距離は魔羚羊もかくやという長大な距離です。
馬で追跡しようと思っても、とても追える速さではありません。
森や林、池や丘も跳び越えるので、目で後を追うことも不可能です。
跡をつけようと思っても、ほとんど足跡を残しません。
まあ、王太子とダニエラが右目を失って七転八倒していますから、とても追っ手を組織する余裕などないでしょう。
私達は逃げながら隠れ家を探しました。
暗く深い森の奥深くに、地面が隆起陥没してできた崖があるのですが、その崖面には所々洞窟が開いていました。
その崖面は蔦や草が生い茂り、人間にはその入り口を見つけるのが困難でした。
でも、私にはわかります。
中に住んでいる蝙蝠や熊、時に魔獣の気配がするのです。
人の制約をかなぐり捨てた私に怖いモノなどありません。
いえ、嘘です。
アウロラに化け物を見るよな視線を向けられたら、私の心は粉々に打ち砕かれてしまうことでしょう。
グッシャ!
魔獣の住む洞窟は避けました。
負ける気はありませんが、アウロラにこれ以上怖い思いはさせられません。
山菜や茸、果物や獣のいる場所は、逃げる途中で目星をつけておきました。
ですがアウロラを一人残して採りに行くのも心配です。
だからといって御姫様抱っこしたままでは狩り集めたものを運べません。
そこで洞窟に住む蝙蝠を狩って食べることにしました。
アウロラと二人で洞窟前の森に落ちている枯れ枝を集め、ありがたいことに手近にも野草と茸が生えていたので集め、火を熾す準備をしててから蝙蝠を狩りました。
蝙蝠を食べるなど嫌がるかと思っていたのですが、アウロラは気丈にも泣き言一つ言わずに蝙蝠の解体を手伝ってくれました。
逃げるときに奪って腰に差しておいた剣と短剣を使い、食べやすい大きさに切った蝙蝠を小枝に刺して焼いて食べました。
空腹だったからでしょう。
覚悟していたような不味いものではなく、味は鶏や鳩と変わりません。
塩がないのと肉が少ないのが難点ですが、たくさん狩れば済むことです。
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