校舎丸ごと異世界転移 ~異能力で異世界を生き抜く~

何基

第1話 はじまり、能力の発現

 代々木朝弘(よよぎあさひろ)は起床と共に、体に違和感を感じた。


 ベッドのすぐ脇に取り付けられた小窓のカーテンを開けて空を伺う。晴天である。視界に架けられた黒い電線の束の上には鳥たちが、整列している。セミの鳴き声がうるさい。何の変哲もないいつもの日常だ。だが、体には強烈な違和感。例えるのなら昨日までの自分の体とは別物のようだ。


 ゆっくりと部屋を見回す。散乱した漫画やライトノベル、ゲーム機。いつもの自分の部屋である。


 突如、目覚まし時計が鳴り響いた。朝弘は枕元に置かれた目覚まし時計に視線を移す。時刻は七時。そういえば珍しく、目覚まし時計が鳴る前に起床していたようである。いつも夜遅くまでゲームに没頭しているので、目覚まし時計の起床アラームより早く目覚めることはほとんど無い。


 じりじりと鳴り響くベル。朝弘の体は妙な力に満ちている。何となくこの体にひしめく力を発散してみたいと思いベッドの上で暴れてみた。柔らかな枕に何度か拳をねじ込み、飛び跳ねた。


「うるさい。ゲームオタク」


 ドアの外から、弟の清弘がふてぶてしい声をかけてきた。生意気な弟である。こいつは朝弘の言うことは一切聞かない。それどころか、彼のことをひどく軽視している。


「お前の方がうるせえよ」


 朝弘は弟に聞こえぬように、小さくつぶやいた。こんなことを聞かれれば面倒だ。朝弘は帰宅部で、弟はサッカー部、当然体格は弟の方がよく、喧嘩をすれば勝てるはずもなかった。


 本当に面白くない。朝弘にとっての現実は退屈したものだった。


 朝弘は冷静になり、一つため息を吐くと目を閉じた。そしてまた目を開いたとき、一驚した。時計の針が止まっていたのだ。部屋にこだましていた、アラームの音はきっかり聞こえなくなった。朝弘は驚いて立ち上がった。すると、何事もなかったかのように時計は動き始めた。


 気のせいだったのか、朝弘は高校までの道中。先ほどの不思議な出来事を何度も思い返した。

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