第791話 勇者の兜

「ほら、受け取ってくれ」

「これは……?」

「実は俺も中身はまだ見てないんだ。だが、長老の話によると里に古くから伝わる大切な代物らしい」

「レナ殿、もしかしたらそれは……!!」

「開けてみてください!!」



二人の族長の言葉にレナは頷き、木箱の蓋を外す。そして全員が中身を覗き込むと、そこには古ぼけた「兜」が収められていた。それを見たレナは兜を持ち上げると、アルフとライクは何かを確信したように頷く。



「こ、これは……間違いありませぬ、勇者の兜です!!」

「そうか、北里では勇者の兜を保管していたのか……」

「長老はこの兜の事を知っていらしたのですね」

『おおっ!!けど、こいつも勇者にしか使えないのか?おい、レナ試してみろよ』

「はあっ……じゃあ、ちょっと被ってみますね」



長い間保管されていたとはいえ、手入れはされていたのか兜は汚れている様子はなく、試しにレナは兜を装着する。特にこれといって特別な力は感じず、何も起きない。


勇者の剣と盾を装備した時はすぐに反応を示したが、兜の方は身に付けていても変化は起きず、戸惑いの表情を浮かべながらもレナは兜を取り外す。



「あれ……別に何も起きないですね」

「ん?どういう事だ?それは勇者の兜じゃないのか?」

『おい、レナ!!次は俺に被らせてくれ!!』

「ま、待ちなさいカツ!!貴方が被るのであればあちらの方で身に付けなさい!!」

『ちっ、面倒だな……』



人前で兜を外そうとしたカツにイルミナは慌てて注意すると、カツは面倒そうに他の人間に顔を見られない場所に移動し、兜を装着する。下手に彼が兜を外すと鬼人族だとばれてしまうため仕方がないとはいえ、イルミナの反応にエルフ達は不思議に思う。



『よしっ、被るぞ……うおっ!?なんじゃこりゃ!?』

「どうしたカツ!?何か反応があったのか?」

『……いや、角が邪魔で上手く入らねえ……くそ、やっぱり俺には勇者の装備品は身に付けられねえのかよ!!』

「角?甲冑の兄さん、角が生えているのか?」

「い、いえ!!何でもありません!!」



カツの言葉にミノは首を傾げるが、慌ててイルミナはカツから勇者の兜を回収すると、今度は彼女が身に付けてみる。しかし、やはりというべきかレナとカツと同様に兜は特に反応を示さなかった。



「……私も反応がありませんね。という事はこの兜は勇者の兜ではないのでしょうか?」

「そ、そんな……」

「偽物、か?」

「おいおい、変な事を言うんじゃねえよ!!その兜は間違いなく、長老がレナのために託した兜だぞ!!それを偽物呼ばわりするなんて酷いぞ!?」

「いや、そういう意味では……」



落胆する二人の族長の反応を見て事情を知らないミノは憤り、長老がレナのために託した兜を偽物呼ばわりされれば怒るのも無理はない。彼にも事情を話すべきだとレナは口を開こうとした時、建物の中にゴブリンが入り込む。



「ギギッ!!ミノ、タイヘン!!ソト、ソトガタイヘン!!」

「どうしたゴブキチ!?」

「何かあったのですか?」



建物の中に入ってきたゴブリンの魔人はゴブキチというらしく、ミノの腕を掴んで彼を外へ出そうとする。ただ事ではない様子にレナ達も気にかかり、二人と共に外へ向かう。


外へ飛び出すと、建物の前には複数の魔人が存在し、彼等はエルフの戦士達に取り囲まれていた。それを見たレナ達は慌てて駆けつけると、いったい何が起きたのかを問い質す。



「どうしたんですか!?何かあったんですか?」

「勇者様、この魔物どもが子供に手を出そうとしたのです!!」

「私の息子を食べるつもりか!!」

「ううっ……」

「チ、チガッ……タダ、ナイテイタカラナグサメヨウトシタダケデ……」



エルフの夫婦が泣きじゃくった子供をあやしており、その様子をゴブリンの子供がおろおろとした表情でうろたえていた。どうやらゴブリンはエルフの子供が泣いている場面を見て彼を慰めようとしたようだが、それを見た他のエルフの大人たちが子供にゴブリンが襲い掛かろうとしていると勘違いしたらしい。



「そもそもどうして我々の里に魔物なんかを入れたんだ!!」

「族長、この者達は危険です!!今すぐに追い出すか、始末しましょう!!」

「そうだそうだ!!」

「この里から出ていけ!!」

「ウウッ……」

「ナ、ナンデ……ボクタチ、ワルイコトシテナイ」

「おうおう、黙って聞いていれば好き勝手言いやがって!!俺達が何をしたっていうんだよ!?」



南里のエルフの言葉に魔人たちは動揺し、一方的な言い分にミノは怒鳴りつけるが、そんな彼の態度が逆にエルフ達の警戒心を強くさせる。その様子を見ていた族長のライクが慌てて彼等を宥めようとした。

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